研究実績の概要 |
2000年代後半から、ジャック・ラッセル・テリア(J.R.テリア)において、胃および大腸の腫瘍性ポリープの症例が増加しており、その犬種特異的な発生からこの疾患が遺伝性疾患である可能性が指摘されてきた。我々は、その病態の類似性から、本疾患がヒトの遺伝性疾患である家族性大腸腺腫症(FAP)に相当する疾患ではないかと考え、消化管腫瘍性ポリープを罹患したJ.R.テリア21頭のDNAを収集し、FAP の原因遺伝子であるAPC遺伝子を解析した。その結果、罹患犬全頭に同一の生殖細胞系列変異(c.[462_463delinsTT])がヘテロ接合性に認められ、この疾患がAPC遺伝子変異に起因する優性遺伝性疾患であることを明らかにした(Carcinogenesis 42(1), 70-79, 2021)。 その後、同定したAPC遺伝子変異の有無を簡便に判定できる遺伝子検査法(PCR-RFLP法およびTaqMan PCR法)を開発した(BMC Vet. Res. 17(1):32, 2021)。 最終年度には、開発した遺伝子検査法を用いて、J.R.テリアにおけるAPC遺伝子変異の保有率および本疾患の犬種特異性について検討した。2020年3月から6月にかけて一般の動物病院において収集した792頭のJ.R.テリアの血液を調べたところ、15頭にAPC遺伝子変異が検出され、遺伝子変異保有率は1.9%であった。また、J.R.テリア以外の犬種にもAPC変異を保有する症例が存在するか明らかにするため、岐阜大学(獣医病理学研究室のパラフィン包埋サンプル、n=32)および麻布大学(遺伝子バンクのDNAサンプル、n=35)のサンプルを用いて回顧的に検討したところ、胃あるいは腸の腺腫・腺癌と診断された過去の症例の中に同変異を保有する症例は認められず、本疾患がJ.R.テリアの犬種特異的な疾患であることが示唆された。
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