研究課題/領域番号 |
18K05971
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
高木 光博 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (40271746)
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研究分担者 |
宇野 誠一 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (50381140)
宮本 明夫 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (10192767)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 牛 / カビ毒 / 繁殖性 / 抗ミューラー管ホルモン / 急性相タンパク質 |
研究実績の概要 |
本申請課題の目的の1つである、牛群におけるカビ毒浸潤動態が雌牛の繁殖性に与える影響に関して、牛の繁殖性との関連性が示唆され、牛卵巣内胞状卵胞数をモニターするためのバイオマーカーである、血中抗ミューラー管ホルモン(AMH)濃度測定系を既に確立している。本年度は、各雌牛がもつAMH濃度に変動を与える要因解析を目的とした。乳用種牛 (N=43) の分娩2週間前(W-2)及び分娩後4週間後(W4)に採血を行うとともに、分娩後W4の子宮内膜炎(膣検査、メトリチェック、サイトブラシによる細胞診断)や乳房炎(乳汁中体細胞数測定)への罹患状況の臨床観察を行なった。得られた血清サンプルを用いて、血清生化学検査結果からの代謝プロファイルテスト(MPT)による栄養状態の把握、AMH濃度及び炎症性マーカーである血清アミロイドA(SAA)濃度測定などを行なった。得られた各牛の分娩前後におけるAMH濃度比(分娩後AMH濃度/分娩前AMH濃度)の上位25%の牛をH-AMH群(n=11)、下位25%をL-AMH群(n=11)として、各群における臨床観察結果及び血清生化学検査結果の比較を行い、AMH濃度に影響を与える要因の解析を行なった。その結果、子宮内膜炎や乳房炎への罹患状況、及びMPT結果をもとにした栄養状態には両群間に有意差は認められなかった。一方、L-AMH群では急性相タンパク質として知られるSAA濃度が有意に高く、アルブミン/グロブリン比(AG比)は有意に低い値となった。このAG比のL-AMH群における有意な低値は、Hγ-グロブリン濃度上昇に起因するものであった。以上の結果、生体内での炎症性反応によって牛の血中AMH濃度、すなわち卵巣内の胞状卵胞数は変動することが初めて示された。今後、カビ毒浸潤動態解析に炎症性マーカーも併せて測定を行うことで、新たな知見を得ることができるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題においては以下の4研究課題、1)飼料へのフラクトオリゴ糖 (FOS)添加が消化管バリア機能に与える臨床的評価、2)カビ毒浸潤動態と血中抗ミューラー管ホルモン(AMH)濃度との関連性、3)カビ毒浸潤動態とメタボローム解析との関連性、及び4)牛卵管上皮細胞培養モデルを用いたZEN浸潤の繁殖性への影響、を行う予定であり、1と2についてはすでに一部の試験を終えて、得られた成果は既に論文発表を行なっている。2と3に関してはすでに一部サンプリングは終えており、2については上記の研究実績の概要に記載した研究成果も挙げている。現在、追加のフィールド研究を計画しており、最終年度でその最終的な成果を取りまとめる予定である。一方、3については当初ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)を用いた研究を行う計画であったが、昨年以降、ガスクロマトグラフィー測定に必要なヘリウムガスのわが国における供給不足ために、測定を中断している。現在、3の研究課題の代替研究として、FOS添加による腸管内抗炎症作用効果のモニタリングを行うために、液体クロマトグラフィー法を用いた血清中低級脂肪酸測定法、及び血清アミロイドA濃度測定系を確立し、既に一部結果が得られている。また、4については共同研究者とも既に研究打ち合わせを終えており、ゼアラレノン添加培養試験を行なって最終的な研究成果が得られる予定である。以上のことから、おおむね順調に進展しているとの評価を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で記載の通り、現在研究課題2及び3についての検討を主に行なっており、2に関しては牛群を追加してサンプリング数を増やすとともに、これまでとは違った視点から継続して血中AMH濃度の測定を行なって、データベースの蓄積を行うこととする。3に関しては上述の通り、当初想定していたメタボローム解析を代替するために、血中低級脂肪酸濃度の解析を行って、添加したFOSにより腸管内で明らかに発酵過程を経て、低級脂肪酸合成が行われたことを確認するとともに、FOS添加が腸管上皮細胞タイトジャンクションの消化管バリア機能に間接的な影響を与えた可能性や抗炎症作用の有無を含めた検証を行うために、炎症性マーカーである急性相タンパク質の測定も併せて行なっていく予定である。4に関しても上述の通り、予定どりの共同研究を推進していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本申請課題において、海外共同研究者(フランスとオランダ)2名をそれぞれ訪問して、これまでに得られている研究成果の説明とその取りまとめ、及び最終年度に行う予定の研究内容についての学術的な助言を仰ぐ予定であったが、COVID-19の世界的な感染拡大によりその予定がキャンセルされたことが大きな理由である。本年度においては、本申請課題研究の最終年度であることから、研究計画にあげた内容を計画通り実行するとともに、年内に計画されている国内、国際学会での発表、及び成果の論文発表を進めるための国内、海外共同研究者の訪問を実施して最終成果の論文発表まで行う予定である。
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