畜産衛生と公衆衛生の両面において重要な病原体である豚インフルエンザウイルスのブタ細胞における増殖性の分子基盤を解明することを目的として、2009年以前に国内養豚で流行していたH1N2亜型古典的豚インフルエンザウイルス、ならびに2009年にヒト社会でパンデミックを引き起こし国内養豚でも急速に蔓延したA(H1N1)pdm09ウイルスの人工合成系を樹立・活用して、ブタ由来培養細胞における高い増殖性を付与する遺伝的要因の解明を試みた。 古典的豚株A/swine/Miyazaki/1/2006 (H1N2)の人工合成系を樹立し、得られた人工合成ウイルスの培養細胞における増殖性が、実際の分離ウイルス株と同等であることを確認した。続いて、この人工合成ウイルスが有する全8遺伝子分節のうち、外部糖蛋白質HAおよびNA以外のウイルス蛋白質をコードする6遺伝子分節について、パンデミック初期分離株A/California/04/2009 (H1N1)由来の相同遺伝子分節と様々な組み合わせで置換した遺伝子再集合体の作出を試みた。その結果、ポリメラーゼ活性を規定する4遺伝子分節が全てパンデミック株由来でも、残りのMおよびNS遺伝子分節のいずれかが古典的豚株由来のウイルスは作出できなかった。さらに、作出できた各遺伝子再集合体の増殖性をブタ由来培養細胞で比較したところ、野外分離株として確認されている「6遺伝子分節が全てパンデミック株由来」と「NP遺伝子分節を除く5遺伝子分節がパンデミック株由来」の2種類ウイルスは同程度に高い増殖性を示し、他の遺伝子再集合体の増殖性は優位に劣っていた。 以上の結果より、豚インフルエンザウイルスのブタ細胞における増殖性は、MおよびNS遺伝子分節も含めたトータルの遺伝子構成に規定されること、および野外株の遺伝子構成はブタ細胞における優れた増殖性を反映していることが明らかとなった。
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