研究実績の概要 |
マダニは外部寄生虫の中で、最も甚大な被害を家畜に引き起こす。吸血性節足動物であるマダニは、血液獲得を目的とし、ヒトや家畜など宿主動物が放散する三大要素(二酸化炭素・匂い・熱)を認識することで動物に接近する。本研究課題では、マダニの標的認識システムを支える分子基盤の解明に焦点をあてることで、マダニの行動を人為的に制御できる新規忌避剤の開発基盤構築に寄与することを目指した。 マダニは昆虫と異なり触覚を欠き、さらに進化の過程で眼を退化させたことから視覚系の欠損が認められる。したがって、蚊などの吸血性節足動物とは完全に異なる標的認識システムを独自に進化させ適応を遂げたと考えられるが、マダニの宿主標的認識を支える分子基盤は明らかにされていない。マダニは形態学的研究から、第1脚にあるハラー氏器官に温度・湿度感覚を受容する感覚子が局在すると推測されている。本研究では、日本優占種であるフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)を用いて、宿主捕捉体勢を示した野外フタトゲチマダニで発現する遺伝子群のトランスクリプトーム解析を実施し、ヒトからショウジョウバエまで温度需要メカニズムに関わる主要分子として知られるTRP(Transient Receptor Potential)チャネルのホモログに加え、複数の味覚受容体(gustatory receptor, GR)ホモログを同定した。さらに、二酸化炭素感受性マダニと、二酸化炭素非感受性マダニを用いて、発現する遺伝子群のトランスクリプトーム比較解析を行った。その結果、二酸化炭素感受性マダニでは二酸化炭素刺激後にcathepsin B, HRP, TNF receptor associated factorなどの遺伝子変動が認められ、二酸化炭素認識に関与する複数の候補分子の存在が明らかになった。
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