研究実績の概要 |
近年,人の院内死亡症例や法医学領域において,死亡時画像診断が死因究明の手段として実施されている.獣医療における死亡時画像診断の適用例は,1)臨床経過の中で死亡し,死因の確認が必要な症例,2)経済的価値の高い展示動物,3)法医学の適用症例であり,研究期間中にこれらのデータを蓄積した.最終年度は,本研究で得られた成果を論文化した.産業動物における死亡時画像診断の有用性に関する論文(Yamada et al. Role of autopsy imaging -computed tomography in the post-mortem study of farm animals. Veterinary Record Open, 2021)と,獣医療における死亡時画像診断の総説(山田一孝.獣医療におけるAiの現状と将来.RadFan, 2021)が掲載された. 本研究で明らかになったことは,死亡時画像診断での動物虐待摘発の可能性である.警察から不審死動物の死因鑑定を依頼された症例について,病理解剖前のCT検査で,頭蓋骨骨折を診断することが可能であった.獣医師にとって死亡時画像診断は,病理解剖よりもハードルは低い.骨折や溺死を支持する画像所見を押さえておけば,病理解剖ができなくても虐待を裏付ける証拠を残すことができる.死亡時画像診断を利用することで,これまで見逃されてきた動物虐待を発見できる可能性がある.動物虐待が発生する家庭は,児童虐待やドメスティックバイオレンスが発生しやすいことがわかっている.動物虐待を警察にフィードバックすることで,児童虐待やドメスティックバイオレンスを未然に防ぐことができるかもしれない.臨床獣医師の役割は,伴侶動物の飼育を通じた飼い主への幸福を提供することである.これに加えて,動物の死亡時画像診断を通じて健全な社会に側面から貢献する役割を担いたい.
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