研究課題/領域番号 |
18K05986
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
花木 賢一 国立感染症研究所, 動物管理室, 室長 (40376421)
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研究分担者 |
滝本 一広 国立感染症研究所, 動物管理室, 主任研究官 (70280766)
田原口 元子 国立感染症研究所, 動物管理室, 主任研究官 (20392326)
森 一泰 国立感染症研究所, エイズ研究センター, 主任研究官 (20270655) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ノロウイルス / レトロウイルス / 持続感染 |
研究実績の概要 |
本研究はマウスノロウイルス(MNV)に感受性のある培養細胞の中で、MNVの高い増殖性と持続感染が成立するRAW264.7細胞の特徴が内在性レトロウイルス(MuLV)の関与によるのではないかという仮説に基づいて実施している。その仮説の実証方法として、IFN-γや逆転写酵素阻害剤等の抗ウイルス薬処理前後のMNV持続感染細胞の産生するMNVとMuLVのRNA量の比較解析、内在性MuLVを不活化することでMNV増殖性の低下ならびにMNV持続感染が阻止されるか等の検討を行う。 昨年度、170継代を超えたMNV持続感染細胞において細胞内MNV抗原を間接蛍光抗体法(IFA)で観察すると、容易に視認できない程に抗原量が低下していた。また、培養上清中のMNV RNA量を定量RT-PCRで調べると、IFAでMNV抗原が容易に視認できた時点に比べて約1/100に低下していた。そこで、今年度は90継代時に凍結保存した細胞を起こして継代をやり直した。しかし、120継代の時点でIFAによるMNV抗原の視認が困難になり、培養上清中のMNV RNA量の著しい低下も認めた。 内在性MuLVの不活化したRAW264.7細胞の作成は、CRISPR/Cas9システムを用いて進めている。昨年度決定したRAW264.7細胞由来MuLVのgag遺伝子とpol遺伝子の塩基配列を基にガイドRNAデザインwebツール:CHOPCHOPとCRISPRdirectによりそれら遺伝子を標的としたガイドRNAの配列(4箇所)を設計した。そして、Guide-it CRISPR/Cas9システムを用いて当該配列をプラスミドベクターにクローニングした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
MNV持続感染細胞は90継代時に凍結保存した細胞を起こし、10継代毎にIFAによる抗原観察と定量RT-PCRによる培養上清中のMNV RNA量を測定した。100継代時ではIFAでMNVの複製時に見られるdsRNAとMNV抗原を確認できた細胞が約10%あったが、110継代時では約5%、120継代時では1%未満に低下し、培養上清中のMNV RNA量は91継代時のそれに比べて約1/100に低下した。持続感染細胞の安定した継代ができないことは、継代数増加によるRAW264.7細胞の形質転換、持続感染細胞樹立後の研究代表者の所属機関異動による実験環境の変化等の要因が考えられるが、特定できていない。そのため、IFN-γ等の抗ウイルス薬処理前後のMNV持続感染細胞の産生するMNVとMuLVのRNA量の比較解析はできていない。 MNV低増殖性のWEHI-231細胞にMuLVを感染させた後にMNVに対する感受性が変化するかを検討するため、セルカルチャーインサートを用いてWEHI-231細胞とRAW264.7細胞の共培養を行った。しかし、共培養一ヶ月後のWEHI-231細胞からは逆転写酵素活性を確認できなかった。そこで、WEHI-231細胞を用いたMuLVに関する先行文献を探したが、確認することができなかった。そのため、WEHI-231細胞にMuLVは感染しないと判断して本検討は中止した。 内在性MuLVを不活化したRAW264.7細胞株の樹立は、CRISPR/Cas9システムのガイドRNAの調製段階である。 MuLV感染マウスにおけるMNV持続感染性の解析は、培養細胞においてMNVの持続感染成立にMuLVが関与しているという仮説を裏付けるデータが得られていないために実施していない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で用いているMNV持続感染細胞の樹立に関する原著論文は発表できていないが、それは投稿した論文に対してMNV抗原検出に抗血清を用いていることの批判に対処できなかったためである。そこで、本研究の仮説を証明して改めて投稿する考えであった。しかし、仮説の証明に難航していることから、外部委託によりMNV抗原に対するモノクローナル抗体を作製し、MNV持続感染細胞の樹立に関する原著論文の再投稿に必要なデータを揃える。また、持続感染細胞の多継代によるウイルスの変異について、120継代までの30継代毎の全長ゲノム解析を行う。それらを基に本研究成果の一部として論文にまとめる。加えて、CRISPR-Cas9システムによりMuLV不活化RAW264.7細胞株を樹立できた場合には、MNVに対する感受性の相違を検証して論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
MNV持続感染による細胞の性状変化を解析することを目的として、当該年度にMNV持続感染RAW264.7細胞と未感染RAW264.7細胞のサイトカインの発現を調べるためのELISAキットの購入、抗ウイルス薬処理前後のMNV持続感染細胞の産生するMNVとMuLVのRNA量の比較解析のためのIFN-γ等の購入を計画していた。しかし、MNV持続感染細胞の継代が安定しないためにそれらの購入を行わなかった。次年度に繰り越すことになった研究費は、MNV持続感染細胞の樹立に関する原著論文のデータ取得に必要なMNV抗原に対するモノクローナル抗体作製のための外部委託費に充当する。
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