研究実績の概要 |
で罹患する。ウイルスは腸管から侵入し血流に乗って標的臓器である肝臓に到達すると考えられているが、腸管からのウイルス侵入様式や侵入を制御する宿主免疫応答は未解明である。報告者が開発したA型肝炎ウイルス(HAV)感染マウスモデル(Science 353:1541, 2016)は、ウイルスを尾静脈内投与して感染させるため、腸管からのウイルス侵入を解析できない。本研究はHAVに経口感染するマウスモデルを確立し、腸管からのウイルス侵入様式や、腸管の自然免疫応答について網羅的に解明することを目的としている。本研究では、X/Y遺伝子二重欠損マウスに、マウスで継代したHAV株を経口(胃内)投与することで、感染させることに成功した。感染したマウスは患者と同様に、潜伏期の後に糞便ウイルス排出、ウイルス血症、肝でのウイルス増殖、血清肝酵素の上昇、抗ウイルス抗体産生を認め、人での感染路と病態を再現するマウスモデルを確立した。腸管でのウイルス複製について検討し、腸管での初期増殖が検出されなかったことから、HAVが腸管から侵入する際に腸管上皮で複製するのではなく、何らかの方法(例えばトランスサイトーシスや貪食細胞による輸送など)によって通過する可能性が示唆された。今のところ通過のメカニズムの解明には至っていない。XあるいはY遺伝子のいずれが経口感染への感受性を付与しているか明らかにするために、単遺伝子欠損マウスに経口投与した結果、X遺伝子が感受性を規定していることが明らかとなった。また、糞便中にウイルスを排出している感染マウスと同居させることで、未処置マウスへの感染伝播が認められた。これはマウスの食糞行動による糞口感染ものと考えられ、家族や異性間での水平感染を再現するモデルとなり得る。
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