研究課題/領域番号 |
18K05994
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
佐藤 晃一 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (90205914)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | がん / SET / 筋線維芽細胞 / CAFs / がんニッチ / がん微小環境 |
研究実績の概要 |
筋線維芽細胞はがん細胞により教育され,がんニッチにおいて重要な役割を果たすことから創薬標的として注目されている。そのため,正常組織の筋線維芽細胞とがん組織の筋線維芽細胞(CAF)の違いを明らかにすることが,新規抗がん戦略の創出に不可欠である。本研究は,筋線維芽細胞のSET発現上昇が癌ニッチに果たす役割を解明することで,筋線維芽細胞を標的とした抗がん戦略への基盤となることを目的とする。 【補助事業期間中の研究実施計画】: CAFs様筋線維芽細胞株であるLmcMFを用い,SETが筋線維芽細胞の表現型やがん組織の成長に与える影響を解明するため,以下の事項について検討する。 2019年度は,研究計画に沿った実験を行うことで,以下の(1)および(2)を明らかとし,それらのデータを使って論文を作成し投稿した。その後,投稿論文に対するrevise実験などを行い,最終的にacceptとなった。さらに,(3)および(4)の研究を実施する事で,新たな知見を得て,本研究計画の最終目標の遂行を目指した。 (1)正常マウス消化管の非上皮経細胞(筋線維芽細胞等)におけるSET陽性細胞の割合を,免疫染色より検討した結果,正常組織にもSETの発現が明らかとなった。(2)胃がんモデルマウスより摘出した胃組織を用いて,非腫瘍部と腫瘍部の筋線維芽細胞におけるSET発現を検討したところ,腫瘍部において有意なSET発現率上昇が明らかとなった。また,ヒト大腸癌患者においても,同様の結果が得られた。(3)レンチウイルスベクターを用いてLmcMFのSET発現抑制細胞を作成し,CAFsマーカー発現,細胞増殖,細胞遊走,サイトカイン分泌の変化について検討した。(4)サイトカインで活性化された環境下でSETの影響を検討するために,TGF-βを用いてLmcMFを刺激し,SET発現有無の変化を観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,筋線維芽細胞のSET発現が細胞自身の表現型に与える影響を解明するため,マウス腸筋線維芽細胞においてSETの発現を上昇・低下させ,筋線維芽細胞の表現型(増殖,遊走,サイトカイン発現の変化など)に与える影響とその分子機構を解明することを計画している。 今年度は,Non-targeting shRNAまたはSET-targeting shRNAを作成し,LmcMFに導入することで,SET発現量を変化させた細胞(それぞれshNT細胞,shSET細胞)を作成した。TGF-β刺激によるOsteoprotegerin(OPG)産生は,shSET細胞で有意に減少した。産生抑制が分子発現誘導レベルでの制御か,他の要因が関与するのかを調べるために,Real Time PCRでの検討を行ったところ,shSET細胞ではmRNA発現が抑制されていることが明らかとなった。そこで,SETが関与する細胞内シグナルを検討するために,MAPKシグナルおよびPI3K/Aktシグナルの影響をEKR1/2およびp38リン酸化レベルの変化を指標に検討した。その結果,shSET細胞でいずれのリン酸化も抑制されたことから,CAFs様筋線維芽細胞では,SETがTGF-β刺激によるERK1/2,p38,Aktのリン酸化を促進することが明らかとなった。さらに,Aktまたはp38の阻害により,TGF-β刺激により誘導されるOPG mRNA発現が抑制されることも明らかとした。 以上より,2019年度は,SET発現抑制による筋線維芽細胞の表現型の変化の一部を明らかにするとともに,これまでの研究成果の一部を英文一流紙へ投稿した(PLoS One. 2019 Sep 26;14(9))
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果より,SET発現を抑制することでTGF-β刺激によるOPG産生が抑制されたことから,SETの発現はTGF-βを介する情報伝達系に作用する可能性が示唆された。今後は,TGF-β刺激による情報伝達系を明らかにするため,SET発現がどのようなシグナル伝達に影響を与えることでその変化がもたらされるかを明らかにする。なお,SETはタンパク質脱リン酸化酵素PP2Aの阻害タンパク質であることから,特にPP2Aの基質となる因子に着目して解析する。また,標的分子として,現在, TRAIL (TNF Related Apoptosis-Inducing Ligand)が重要な因子であるデータを得ており,今後はRecombinant Murine TRAILやSupper Killer TRAILを用いてOPGとの相互作用を検討する。 これらの実験を通じて,SET発現変化が筋線維芽細胞の表現型やがん組織の成長に与える影響とそのメカニズムを明らかにする。
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