研究課題/領域番号 |
18K05995
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
佐藤 宏 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (90211945)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クドア / 粘液胞子虫 / 南シナ海 / 海産魚 / 種多様性 / Kudoa / Unicapsula / rDNA |
研究実績の概要 |
生鮮海産魚喫食に伴うクドア食中毒の原因となった種の特定や、養殖段階やその市販段階での損失原因となる種の特定のためには、日本近海あるいは周辺海域で未だに調査が行われていない魚種を中心に、多殻目粘液胞子虫の種多様性や寄生状況を調べる基盤研究が進められる必要がある。周辺海域では養殖用稚魚や冷凍魚の輸出が行われ、また、近海では養殖魚への感染源となる保虫宿主が生息していることによる。南シナ海から輸入した稚魚の国内養殖では、実際にKudoa属粘液胞子虫寄生が過去に問題となっている。南シナ海産魚(一部は大西洋産あるいはベーリング海産輸入魚)として15科22種317尾を調べ、7種15株のUnicapsula spp.および9種9株のKudoa spp.を得て前年度から解析を進めてきた。前者については、U. muscularis、U. galeata、U. andersenae、U. pyramidata、U. pflugfelderiいった5既知種と2新種(Unicapsula trigonaとUnicapsula motomurai)と同定され、これまで形態学的な種記載以上の情報が欠けていた主要種U. muscularisやU. galeataについても分子系統学的な基盤情報を収集できた。また、後者については、4既知種(K. bora、K. lutjanus、K. petala、K. uncinata)と5新種と同定された。K. boraやK. lutjanusはKudoa iwataiとの種鑑別が形態学的に難しかったが、リボソームRNA遺伝子(rDNA)およびミトコンドリアDNA遺伝子(cox-1/rns-rnl領域)の塩基配列情報を新たに収集し、3種が明確に区別できることを示した。現在、更に収集を進めた魚種について寄生する多殻目粘液胞子虫の種同定とそれぞれの特徴づけを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
南シナ海産魚の調査は広東海洋大学の李迎春博士との共同研究として進めている。これまで世界的にも調査が及んでいなかった魚種も積極的に収集して検査することで、多殻目粘液胞子虫について多くの既知種および新種の分離に成功し、その胞子を形態学的に、また、rDNA塩基配列情報として分子系統学的に特徴づけることができた。新規材料収集は継続しており、更に研究の進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、南シナ海産鮮魚の調査により7種15株のUnicapsula spp.(新たな地理的分布記録となる5既知種の確認と2新種の記載)および9種9株のKudoa spp.(新たに分子系統学的な解析を行えた4既知種と5新種の記載)について新規知見を得た。これら2属に分類される多殻目粘液胞子虫には、クドア食中毒の原因となる種を含んでおり、類種鑑別での信頼性を確保するためには、さらに網羅的な分離株の収集と生物学的な基盤情報を集積していく必要がある。本研究のように多くの多殻目粘液胞子虫を対象として基盤研究が進む意義は世界的にも大きい。継続している調査でも未知種の分離があることから、研究は今後も進展すると考えている。ジャワ海産鮮魚からも3種の多殻目粘液胞子虫を分離しており、既知種については海域による種内変異解析をとおした生物地理学的な研究も進められる。現在の研究状況は、本研究が目的とする「アジア海域食用魚に寄生するクドア粘液胞子虫の生物地理学とリスク評価への応用」達成に向けて着実に進展していると考えている。
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