本研究課題は、「腎障害で浸潤してくる炎症細胞の種類および浸潤の程度を、尿を用いたリキッドバイオプシーで診断することが可能かどうか」である。アロジェニック腎移植ラットモデルを用いて検討を行ったところ、移植後5日には著しい急性拒絶反応が起きていることが確認された。浸潤細胞の種類を同定するために、免疫組織化学解析を行った。全ての腎移植群(Tp群)の腎において細胞傷害性T細胞のマーカーであるCD8が最も顕著に浸潤細胞に陽性を示した。そこでCD8について、尿中細胞外小胞であるエクソソーム(uEV)に存在するかどうかについてイムノブロット法を用いて検討した。その結果、対照群では見られなかったCD8のバンドが、Tp群のuEVでは検出された。このことから、腎移植後の細胞傷害性T細胞の浸潤をリキッドバイオプシーで検出できる可能性が示された。また、Tp群ではuEVマーカータンパク質であるTSG101およびAlixタンパク質が増加していたことから、細胞浸潤が引き起こされた腎でのuEV放出数が増加している可能性が考えられた。そこで、腎における浸潤領域の大きさとuEV-TSG101および-Alixの相関関係を調べた。その結果、uEV-TSG101について有意な正の相関関係が認められた。そこで、uEV-TSG101の由来細胞を検討した。その結果、腎移植群において、浸潤細胞でTSG101の発現が認められ、対照群の動脈周囲にみられる間質の細胞では発現がみられなかった。一方、尿細管上皮細胞におけるTSG101発現については差はみられなかった。このことから腎移植後のuEVは浸潤細胞由来のものが増加していることが考えられた。以上の結果から尿を用いたリキッドバイオプシーにおいてuEV中のCD8とTSG101の両方を調べることで、腎における細胞傷害性T細胞による細胞浸潤の発生と程度を推測できる可能性が考えられた。
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