研究課題/領域番号 |
18K05999
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中村 洋一 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (90180413)
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研究分担者 |
森山 光章 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (20275283)
高野 桂 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (50453139)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アストロサイト / ミクログリア / Zn2+ / エクオール / インスリン |
研究実績の概要 |
各種の中枢神経障害の克服を目指す基盤を構築することを目的として,培養ミクログリア及びアストロサイトを用いた炎症モデルにおける活性化反応を制御する各種薬剤を検索してきた。本年度もいくつかの制御因子について新知見を得ることができた。 LPSで誘導されるアストロサイトの炎症反応が亜鉛(Zn2+)により増強されることを見出した。その機序としては,Zn2+が細胞内ROS産生やp38 MAPKのリン酸化を促進し,それらを介してiNOS 蛋白の発現を増強してLPS誘導性のNO産生を増加させることが示された。これらのことからZn2+は神経変性疾患時のアストロサイトにおいて炎症性反応を強める方向に働き,ニューロンの傷害を増悪する可能性が示唆される。 反対にLPSで誘導されるアストロサイトの炎症反応を抑制するものとして,イソフラボンの一種であるエクオール(S-equol)を見出した。エクオールはLPSによるiNOS発現とNO産生を抑制した。その作用機作として,細胞膜に存在するG蛋白共役型エストロゲン(ER)受容体であるGPR30の関与が考えられた。活性化アストロサイトが産生するNOを抑制することは,中枢神経細胞の保護に繋がることから,エクオールの効果と作用機序の更なる解明が期待される。 さらに従来ほとんど注目されていなかったが,アストロサイトにインスリンが発現しておりそれを放出していることを見出した。またその発現はLPSによる炎症反応の活性化やamyloid-β(Aβ)刺激により抑制されることも見出した。Aβによる細胞内活性酸素種の上昇がインスリン合成の減少に寄与している可能性が考えられる。中枢でのインスリンの動態や機能についてもグリア細胞が積極的に関与している新事実は,今後中枢疾患の治療法や薬剤標的として注目される可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPSで誘導されるアストロサイトの炎症反応が亜鉛(Zn2+)により増強されることを見出した。反対にLPSで誘導されるアストロサイトの炎症反応を抑制するものとして,イソフラボンの一種であるエクオール(S-equol)を見出した。さらに,従来ほとんど注目されていなかったが,アストロサイトにインスリンが発現しておりそれを放出していることを見出し,その発現がLPSによる炎症反応の活性化やamyloid-β(Aβ)刺激により抑制されることも見出した。これらの成果が得られたが,当初同時進行的に進めることを計画していた以下の検討項目の進捗はもう一歩である。 LPS誘導性モデルによる炎症性変化については,NO産生やiNOS発現についておよびROS産生については充分な成果が得られたが,サイトカイン産生についてやニコチン性アセチルコリン受容体関連因子については十分な検討ができなかった。 細胞外高アンモニアモデルによる炎症性変化についても,検討することができなかった。アストロサイト/ミクログリア共培養系を用いた両細胞間の相互作用についての実験系も不十分である。外傷性脳損傷モデルによる炎症性変化についても手つかずとなった。 以上のことから今後は次項に記した推進方策を中心に研究を展開し,余裕があれば,当初の検討項目にも着手したい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の成果をさらに発展させる予定である。特にアストロサイトがインスリンを発現しているという新知見をもとに,それそれに関連する因子等について検索したい。低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(LRP)はamyloid-β(Aβ)やインスリンなど様々な物質と結合し,結合した物質をエンドサイトーシスによって取り込む機能を持つ。特にLRP1はアストロサイトとミクログリアのAβクリアランスを担っていること,中枢のインスリンシグナルに関連していることから,アルツハイマー病(AD)の治療標的となりうる。アストロサイトだけでなくミクログリア(あるいは株化細胞であるBV-2細胞)についてもLRP等の詳細な検討を進めたい。 近年,AD患者の認知機能の低下および行動異常がココナッツオイルの経口摂取により改善されることが報告されている。ココナッツオイルに含まれる成分の90%以上は飽和脂肪酸であり,そのうち約70%を中鎖脂肪酸が占める。豊富に含まれる中鎖飽和脂肪酸がADの病態の改善に重要であると考えられるがその機構は明らかになっていない。培養アストロサイトやミクログリアによる炎症反応に対する中鎖脂肪酸の影響を詳しく検討したい。 近年,リゾリン脂質が脂質メディエーターとして受容体を介して機能することが明らかになりつつあり,中でも免疫や炎症反応において様々な機能を示すことが見出されている。中枢神経系においては,lysophosphatidylinositol (LysoPI)がニューロンの興奮毒性に対して保護的に作用するという報告があるが,グリア細胞におけるLysoPIの機能はほとんど判明していない。BV-2細胞をリポポリサッカライド(LPS)により実験的に活性化させ,その様々な細胞機能に対するLysoPIの影響を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,消耗品の支出のみで,高額な支出がなかった。次年度はサイトカインのエライザキットなどの高額な出費を予定している。
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