研究課題/領域番号 |
18K06002
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
桐澤 力雄 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (70153252)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 馬媾疹 / 馬ヘルペスウイルス3型 / 貼るワクチン / 迅速診断法 |
研究実績の概要 |
馬媾疹は、馬ヘルペスウイルス3型(EHV3)に起因し、主に交配で伝播する。本病を発症すると外部生殖器に丘疹や水疱が生じ、痛みを伴うため交配が約2週間不可能となり、交配料の高い種牡馬では数億円の損害に達する。本研究では、本病を現場で迅速に診断できるEHV3検出キットの開発と生殖器への感染防御を目的として感染防御抗原をコードするmRNAを微小針に封入した貼るワクチンによる経皮ワクチンを開発する。平成30年度の研究で以下の成績を得た。 1.EHV3検出キット開発:EHV3を免疫したマウスの脾細胞とマウスミエローマ細胞を融合し抗体産生細胞クローンを35種類得た。それらをマウス腹腔内に移入したところ、30種類の高濃度の抗体を腹水として得た。それらの抗体のアイソタイプは、IgG1が14種類、IgG2aとIgG2bがそれぞれ1種類、IgMが12種類、IgG1とIgMの混合が1種類、そしてIgG3とIgMの混合が1種類であった。抗体価は、IgG1クローン14種類中10種類が25600以上の高い値を示し、次いで6400倍が2種類、1600倍と400倍が1種類であった。IgG2aとIgG2bのクローンは6400倍であった。IgMのクローン12種類では6400倍が2種類、1600倍が8種類、残り2種類が100倍であった。2種類のアイソタイプを持つクローンは、6400倍(IgG1とIgM)と1600倍(IgG3とIgM)であった。ウサギ2頭にEHV3を免疫して高度免疫血清を得た。抗体価は何れも320倍であった。 2.経皮ワクチン開発:感染防御抗原の候補となるウイルス蛋白13種類(エンベロープ糖タンパク:gB、gC、gD、gE、gG、gH、gI、gJ、gK、gL、gMとgN;遺伝子発現調節蛋白:ICP22)をコードする領域をPCRで増幅し、動物細胞発現ベクターへのクローニング用に精製を終えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進展に最も大きな影響を与えると考えられたモノクローナル抗体の作出が予想以上にうまくいった。ウサギの高度免疫免疫血清も予定どおり作出しすることができた。 感染防御抗原をコードする領域のPCRでは、試行錯誤して増幅用プライマーを設計し、予定していたウイルス蛋白全てのコード領域を増幅することができた。それらのPCR産物の精製も無事終えた。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画どおり研究を進める。 1.馬媾疹の迅速診断法の確立:平成30年度に作出した30種類のモノクローナル抗体と2種類のウサギ高度免疫血清を精製して、EHV3を最も感度よく検出する抗体の組み合わせを探索する。その組み合わせを用いて、北海道の簡易キット開発メーカーと共同で簡易キットを構築する。さらに、モノクローナル抗体については、ウエスタンブロット法などにより認識しているウイルス蛋白を同定する。 2.馬媾疹の予防法の確立:13種類の感染防御候補蛋白をコードする領域を動物細胞発現用プラスミドにクローニングし、ウイルス蛋白を培養細胞で発現させる。それらのウイルス蛋白とEHV3感染馬の抗体を反応させて、抗体誘導に有効と思われる蛋白を同定する。感染防御抗原をコードする遺伝子をPCRで増幅し、mRNA合成用プラスミドにクローニングし、mRNAを大量に合成する。mRNAの細胞内の安定性を高めて蛋白発現量を多くするため、mRNAの合成はUTPの代わりに1-methylpseudouridine-5'-triphosphateを用いる。皮膚に接すると溶解する素材でできた微小針内に候補となるウイルス蛋白のmRNAを封入し、貼付け型経皮ワクチンとする。この工程は京都のメーカーと共同で行う。試作した貼付け型経皮ワクチンを野外馬に応用し、抗体の誘導能を中和試験で調べる。その成績をもとに、ワクチンを構成するmRNAの種類を決定し、最終候補ワクチンとし、再度、野外試験を実施して、抗体の誘導効果を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
応募した研究計画調書の研究経費に対して、交付予定額が圧縮され、特に研究2年目の研究経費が不足する可能性があったため、1年目の研究経費をできるだけ節約して翌年度に繰り越した。繰り越した助成金については、「その他」の部分の経費に充てる予定。
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