研究課題/領域番号 |
18K06003
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
丸山 総一 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (30181829)
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研究分担者 |
佐藤 真伍 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (60708593)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コウモリ / Bartonella / 疫学 |
研究実績の概要 |
今年度は,2013年に和歌山県で捕獲したユビナガコウモリ50頭,2017年と2018年に北海道で捕獲したキタクビワコウモリ123頭からBartonellaの分離を試みるとともに,分離株のgltA領域に基づく系統解析を行った。さらに,コウモリから採取した外部寄生虫種を同定するとともに,Bartonellaの分離・検出を試みた。 Bartonellaはユビナガコウモリの24%(12/50) から分離された。ユビナガコウモリにはクモバエNycteribia allotopa (N=10)とPenicilidia jenyncii (N=18),ならびに既存種にないNycteribia sp. (N=24)が寄生しており,Bartonella DNA保有率はそれぞれ20%(2/10),0,16.7%(4/24)であった。一方,キタクビワコウモリの26%(32/123)からBartonellaが分離され,その外部寄生虫はコウモリノミ(N=178)とコウモリトコジラミ(N=2)であった。コウモリノミ1検体 (0.6%;1/178)からBartonellaが分離され,77検体(43.2%;77/178)からBartonella DNAが検出された。一方,トコジラミからはBartonellaは検出されなかった。分離株の系統解析では,ユビナガコウモリ属固有のBartonella,クビワコウモリ属固有のBartonellaならびにそれぞれのコウモリには新たな系統のBartonellaが分布していることが明らかになった。 今年度の研究から,わが国のユビナガコウモリとキタクビワコウモリには,それぞれ2系統のBartonellaが分布しており,ユビナガコウモリではNycteribia属のクモバエが,キタクビワコウモリではコウモリノミがBartonella属菌の伝播に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
わが国のコウモリにおける病原性バルトネラの生態解明と分離株の簡易同定法の開発を目的として,平成30年度は国内の2カ所で2種類のコウモリ(ユビナガコウモリ50頭,キタクビワコウモリ123頭)を捕獲することができた。捕獲したコウモリからBartonella属菌の分離を行うとともに分離株については,gltA領域に基づく系統解析とgltAとrpoB領域に基づく相同性解析を行った。また,コウモリにおけるBartonellaのベクターを明らかにするため,コウモリの外部寄生虫についても,形態学的およびチトクロームオキシダーゼI領域の塩基配列から外部寄生虫種を同定するとともにBartonellaの分離を試みた。さらに,ssrA領域を対象としたrealtime-PCR,gltA領域を対象としたconventional-PCRによってコウモリの外部寄生虫からBartonella DNAの検出も継続して行っている。これらの研究はおおむね順調に進展している。 現在,新たなコウモリの捕獲候補地を探索中であり,次年度以降の研究に向けた準備を進めている。さらに,本研究で得られたコウモリおよび外部寄生虫由来分離株と既存のBartonellaを用い,gyrB遺伝子配列に基づいた簡易菌種同定法の開発を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は,引き続き他の地域においてコウモリを捕獲しBartonella属菌の分離を試みる予定である。これまでに検討したユビナガコウモリ,キタクビワコウモリに加え,過去に検討されていない洞窟等を棲家とするモモジロコウモリ(Myotis spp.)やキクガシラコウモリ(Rhinolophus spp.),住家性コウモリの一種であるアブラコウモリ(Pipistrellus abramus)についても同様の手法を用いてBartonellaの分離と分離株の解析を行う予定である。さらに,さまざまなコウモリの外部寄生虫についてもBartonella の分離,そのDNAの検出を試みるとともに,コウモリ分離株と寄生虫分離株の遺伝子性情を比較検討することによって,コウモリ種毎にどのような外部寄生虫がBartonella属菌を媒介するベクターとなっているかを明らかにしていく。 一方,これまでにコウモリから分離した4系統のBartonella属菌は,新種である可能性が示唆されたことから,次世代シーケンサー Miseqとロングリードシーケンサーである Nanopore MinIONを組み合わせて分離株の全ゲノム解析を行う予定である。解析した全ゲノムの中から,病原性因子であるBartonella effector proteins をコードするBeps遺伝子と宿主特異性を決定するTrw遺伝子を解析し,コウモリ由来Bartonellaのヒトに対する病原性,感染性の検討を行う予定である。
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