研究課題
今年度は,静岡県で捕獲したキクガシラコウモリ1頭とモモジロコウモリ3頭からBartonellaの分離を試みるとともに,分離株のgltA系統解析を行った。さらに,モモジロコウモリから採取した外部寄生虫種を同定するとともに,Bartonellaの分離・検出を試みた。今年度捕獲したキクガシラコウモリ,モモジロコウモリの全個体からBartonellaが分離された。さらに,キクガシラコウモリからは外部寄生虫は採取されなかったが,モモジロコウモリにはクモバエ(Nycteribia pygmaea),モモジロコウモリダニ(Spynturnix myoti)が寄生しており,それぞれのBartonella DNAの陽性率は43.8%(7/16),25%(1/4)であった。分離株の系統解析の結果,キクガシラコウモリ分離株は,新規系統のBartonellaを,モモジロコウモリはモモジロコウモリ属固有のBartonellaを2系統保有していることが明らかとなった。さらに,過去にコウモリから分離された系統ごとに7株を選び,全ゲノム解析による病原性に関連する遺伝子の検索を行った。その結果,コウモリ由来Bartonellaの全てが病原性発現に関与している遺伝子の一つであるIV型分泌装置(VirB-D4 T4SS)を保有していることが明らかとなった。今年度の研究から,わが国のキクガシラコウモリ,モモジロコウモリにもBartonellaが分布していることが明らかとなった。さらに,日本のコウモリ由来BartonellaはT4SSを有しており,人に対する病原性を有している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
わが国のコウモリにおける病原性バルトネラの分布状況を解明するために,令和元年度はキクガシラコウモリとモモジロコウモリからBartonellaを分離することができた。本年度は多くのコウモリの捕獲を予定していたが,天候不順が重なり,捕獲期間が非常に短くなったため,捕獲の頭数が大きく減少した。一方,コウモリ由来Bartonellaの病原性評価のために,Miseq,Nanopore MinIONを併用した分離株の全ゲノム解析を行うことにより,IV型分泌装置(T4SS)だけではなく,その他のBartonella属菌の病原因子を広く同定することができた。現在は,Bartonella標準株31株,分離株73株のDNAジャイレース(gyrB)遺伝子領域の塩基配列を決定し,相同性解析による菌種同定を行う際のカットオフ値の決定を試行している。gyrB遺伝子領域に基づくBartonella属菌の系統解析は従来の複数の遺伝子領域を用いた系統解析(Multi locus sequence analysis)と同様に,種ごとにクラスターを形成した。このことから,gyrB遺伝子に基づく系統解析は高い分類能を有していることが示唆された。これらの研究はおおむね順調に進展している。
今後は,ユビナガコウモリから採取した多数のクモバエの種同定を行い,Bartonellaの分離・検出を試みるとともに,クモバエのBartonellaのベクターとしての評価を行う。また,全ゲノム解析により,これまでに得られた7系統のBartonellaは新種であることが確認されたため,これらの株を新種として登録を行う予定である。また,これらの分離株におけるT4SS以外の病原因子を猫ひっかき病の病原体のB. henselaeや塹壕熱の病原体のB. quintanaと比較することで,より詳細な病原性推定を行う予定である。さらに, gyrB遺伝子に基づくBartonellaの菌種同定法が有用であると推測されたため,引き続きコウモリが保有するBartonellaの菌種同定法の開発を進める予定である。
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https://biology.richmond.edu/faculty/jbrinker/