本研究は腫瘍に対する自然免疫応答を効率よく誘導させ抗腫瘍獲得免疫につなげていくことを目的とし、T細胞疲弊化の一因といわれている抗原過多状態を回避する方法について検討した。まず抗原過多回避の検討として、イヌ肥満細胞腫細胞にGPER標的薬を作用させ細胞死誘導機序について解析を行った。昨年度にGPER標的薬はイヌ肥満細胞腫細胞にアポトーシスを誘導することを明らかにした。今年度はさらにGPER標的薬作用によるアポトーシス誘導はイヌ正常細胞株では起こらないことを確認した。細胞周期解析によりGPER標的薬を作用させたイヌ肥満細胞腫細胞においてはG2/M期に留まる細胞の割合が多くなっていることが明らかになった。さらに、GPER標的薬作用後のイヌ肥満細胞腫細胞においていくつかのMAPキナーゼおよびmTORシグナルのキナーゼの活性化上昇が認められた。 次に抗腫瘍獲得免疫につなげていくための抗原提示の効率化について検討した。GPER標的薬を作用しアポトーシスを誘導したイヌ肥満細胞腫細胞を高分子遺伝子導入材料と共にマウス樹状細胞株に投与し貪食促進について検討した。この高分子遺伝子導入材料の存在下で樹状細胞株が遺伝子(核酸)だけではなくタンパク質をも効率良く貪食することはすでに明らかにされているため、アポトーシス誘導後の露出核酸やタンパク質などを効率よくマウス樹状細胞株が取り込むことを期待したが予想に反して高分子遺伝子導入材料の存在下/非存在下どちらとも貪食効率は低かった。PD-L1などの活性化マーカーの発現変化もほとんど起こらなかった。ISDなどの核酸やOVAなどのタンパク質などの単独で貪食能を検討した場合、高分子遺伝子導入材料の存在下で貪食能が上昇することより、アポトーシス誘導後の露出核酸やタンパク質の混合物の貪食についてはより適した条件が存在する可能性が示唆された。
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