研究課題
個体の発生・成長は低栄養・低酸素等の異化的代謝が誘導される環境で遅滞するが、成長に不適なこれらの要因が取り除かれると、短期間のうちに遅滞を経験していない個体の成長度まで急成長する。この現象は「追いつき成長」と呼ばれ、魚類から哺乳類まで様々な動物で観察されている。我々の研究室ではゼブラフィッシュ胚をモデル動物とし、低酸素で成長を遅滞させた後、酸素の再供給で追いつき成長を誘導する実験系を確立し、その分子機構を探っている。Sirtuin (Sirt1-7)はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存的に標的タンパク質を脱アセチル化し、異化代謝に関わる多様な制御を行う酵素である。異化状態で誘導される成長遅滞とその後の条件の改善で生じる追いつき成長は連続した過程であるため、特に成長の再開直後では異化代謝に関する分子の働きが残存し体成長シグナルに変化を与える可能性も考えられる。そこで、本年度の研究では異化代謝に深く関わり、体成長のシグナルと連動することが知られているSirt1/2の追いつき成長における役割を調べた。Sirt1/2特異的に酵素活性を阻害する低分子化合物や各遺伝子の正常な発現を阻害する人工核酸試薬を用いて種々の実験を行なったところ、Sirt1は追いつき成長特異的に胚の成長を加速させる働きを持つことが示された。一方で、成長遅滞を経験しない「通常の成長」をしている胚と、低酸素で一時的に成長遅滞を起こした後に再酸素化処理により「追いつき成長」が誘導された胚との間には、Sirt1/2の遺伝子の発現量に大きなさは見られなかったことから、追いつき成長特異的なSirt1の成長促進作用は転写後の分子に起こる化学修飾やそれに伴う結合タンパク質や分子局在の変化により引き起こされているものと推察された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目的であった、追いつき成長におけるSirt1/2の重要性の違いやこれらの遺伝子発現を調べることができた。また、これらの結果をもとに、今後の研究に必要な各種実験動物の作成にも着手できている。
今後はSirt1の機能が追いつき成長特異的に変化する仕組みをSirt1の分子修飾や細胞内局在の変化、そしてそのことと体成長を制御する主因の一つである「インスリン様成長因子」の細胞内シグナリングとの連関を探る。これにより、Sirt1がどのように体成長に関わり、追いつき成長が誘導されるのか、詳細な分子機構の解明を目指す。また、培養細胞やSirt1のノックアウト動物や誘導的過剰発現が可能なトランスッジェニック動物を用いた実験系を構築し、分子から個体レベルでSirt1の追いつき成長での働きの謎に迫る。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Endocrinology
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