アルギニル化は、アルギニン転移酵素(ATE1)のはたらきによって、タンパク質にアルギニンがペプチド結合する翻訳後修飾である。これまでの報告において、正常な生殖能力にアルギニル化が必要であることも示されているが、雌性配偶子の形成におけるアルギニル化の役割についてはこれまでに報告が皆無である。 本研究の目的は、細胞骨格タンパク質とそのアルギニル化が減数分裂時の紡錘体形成や染色体分配をどのように制御しているのか、さらにはその他のタンパク質のアルギニル化が配偶子形成にどのように関与しているのかを調べることで、雌性配偶子形成のメカニズムの一端を明らかにし、動物生産や生殖医療に貢献する成果を得ることである。もし減数分裂における主要タンパク質の機能がアルギニル化により制御されているのであれば、アルギニル化を人為的に制御することで雌性配偶子の形成およびその発生能を向上させる可能性を提示することができる。このように、本研究は、これまでにない視点から配偶子形成のメカニズムに迫り、動物生産や生殖医療への貢献を目指すものである。 資源生殖細胞からの配偶子の体外作製については実験系が十分に確立できず、導入を進めていた生殖細胞特異的ATE1コンディショナルノックアウトマウスは研究期間内に実験に供することができなかったため、今年度は大幅に予定を変更することとなった。今年度は、卵核胞期(GV期)および第二減数分裂中期(MII期)のマウス卵においてアルギニル化を受けているタンパク質の同定のため、質量分析を実施した。その結果、GV期において13種類、MII期において22種類のタンパク質がアルギニル化を受けているタンパク質の候補として、GV期において13種類、MII期において22種類のタンパク質が検出できた。これらのうち5種類は、GV期とMII期で共通であった。
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