研究課題/領域番号 |
18K06024
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
三好 千香 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 助教 (60613437)
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研究分担者 |
船戸 弘正 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 客員教授 (90363118)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 過眠 / 肥満 |
研究実績の概要 |
睡眠は高等動物に認められる普遍的な行動である。我々は、フォワード・ジェネティクスの手法を用いて睡眠を制御する遺伝子の探索研究を行い、覚醒時間の顕著な短縮を示すSleepy家系を樹立した(Funato, Miyoshi et al., Nature 2016)。Sleepy変異家系マウスは、AMP-activated kinase-related kinase (AMPK-RK)に属するSik3遺伝子に変異をもち、典型的な表現型として覚醒時間の短縮を示す。Sleepyマウスにおいては、若齢期から観察される過眠に加えて、加齢に伴う顕著な体重増加がみられるが、その機序については不明である。本研究では、Sleepyマウスの摂食行動やエネルギー代謝制御に着目し、細胞種(組織)特異的に変異型SIK3遺伝子の発現を制御できる遺伝子改変マウスを用いて、Sleepy変異Sik3の個体における生理機能の解明を試みた。 Sik3ノックアウトマウスを用いた先行研究では、通常の飼育下では顕著な表現型を示さないのに対して、高脂肪食餌下においてエネルギー負荷に対する耐性をもつことが報告されている。 一方、Sleepy家系のマウスは、常餌飼育下でも若齢期から加齢に伴う顕著な肥満が見られる(未発表)。SIK3ノックアウトマウスと体重の推移が異なることから、変異型SIK3は、睡眠覚醒のみならず摂食行動もしくは代謝制御においても未知の機能を持つことが示唆された。 本研究では、特に肥満の表現型に関わる摂食行動やエネルギー代謝におけるSIK3の生理機能を明らかにするため、Cre-loxPシステムを用いて特定の組織、細胞集団でSleepy遺伝子変異を惹起できるような遺伝子改変マウスを作成し、Sleepy変異Sik3の個体における生理機能の解明を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Sik3の発現は、特異性が低く、多くの臓器に発現が見られる。本研究では、代謝に関わる主要器官である肝臓、膵臓、骨格筋および脂肪を構成する細胞に特異的なcreドライバーマウスを用いて、それぞれの組織でSleepy変異を惹起できるような遺伝子改変マウスを作製し、睡眠覚醒行動、摂食行動やエネルギー代謝を解析し、統合的な生理機能を明らかにすることを目的とした検討を行なっている。脳波および行動を測定する機器類のセットアップを完了しており、目的の遺伝子型マウスが取得でき次第、解析を行うことが可能になっている。 現在までにSIK3 sleepy flox マウスを実験に使用可能なレベルまでコロニーの拡営を行なうとともに、creドライバーマウスのうち、先行して初年度に導入を完了したAlubumin-creマウスおよびInsulin-creマウスとの交配によって、肝臓および膵臓において各種細胞特異的にSleepy変異Sik3を発現させた個体が得られており、睡眠覚醒行動の解析が当初の予定通り進んでいる。 体重増加の推移など、表現型の基礎となるデータの取得を体外受精を用いて厳密に生育条件を揃えた状態で継続して行えていることからも、計画はほぼ順調に推移していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
脳波の測定は個体の成熟後のみ可能で概ね3から4ヶ月齢まで待って睡眠測定を行う必要があるため、各表現型、必要な例数に達するまで実験を継続して行う。また、体重、加齢に伴う代謝の変化などの基礎データは、長期にわたる記録が必要なため、年度をまたいで老齢期まで継続的に評価を行う必要がある。これまでも遺伝子型ごとに基礎データの取得を進めているが、次年度以降も計測を実施する。 現在、エネルギーの恒常性維持に関わるAlubumin-cre, Insulin-creの解析を進めているが、2019年度に導入した、脂肪細胞特異的にsleepy変異Sik3を発現するAdiponectin-creと骨格筋特異的なMuscle creatine kinase-creについては、現在コロニーの拡充中であり、実験に十分な頭数が得られていないため、引き続き目的の遺伝子型のマウスを生産する。末梢組織特異的にSleepy遺伝子変異を惹起できるような遺伝子改変マウスにおける、睡眠覚醒行動、摂食行動を明らかにする。また、糖代謝や代謝にかかわる遺伝子発現のプロファイルを定量的なPCRの手法を用いて検討する。Sleepy変異SIK3マウスにおけるエネルギー代謝について前述の手法を用いて網羅的に解析することによって、Sleepy変異SIK3の統合的な生理機能を明らかにする。 さらに、末梢組織におけるSleepy変異マウスの解析からSleepy遺伝子産物を含めた分子ネットワークが抽出された場合には、定量的リン酸化プロテオームによるより網羅的な解析を計画する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid19の影響で学会が中止になったため、次年度に再度実施予定の学会参加費に充当する。
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