研究実績の概要 |
近年、多様なHIV-1株を広範に中和する抗体(bnAb)が分離され、bnAbを誘導することが、効果的なHIV-1ワクチンの開発に重要であると考えられるようになった。しかしながら、HIV-1感染によるbnAbの誘導は稀であり、そのメカニズムも不明である。本研究では、bnAb B404に類似した抗体(B404-class抗体)を高頻度に誘導するSIV感染サル・モデルを用い、bnAb誘導の解析を行った。 SIVsmH635FC株を接種した6頭のアカゲザルの採血とリンパ節のバイオプシーを行い、感染前から感染1年後までの血液、リンパ節の検体を得た。抗体応答が弱かった1頭を除く5頭の感染後12, 24, 51, 55週のリンパ節検体から抗体のライブラリを構築し、ファージ・ディスプレイ法によるSIV Envを抗原としたバイオパンニングを行なった。Env特異的な抗体は5頭全頭から分離され、中和活性を持った抗体は4頭から分離された。強い抗体応答を示したアカゲザルMM618からは、12, 24, 51, 55週のリンパ節全てから中和抗体が分離され、VH4.38遺伝子を使用する同じ系統の抗体が12週から55週まで継続的にみられた。MM621は抗体応答が弱かったが、51, 55週のリンパ節からVH3.33遺伝子を使用するB404-class抗体が多数分離された。B404-class抗体の誘導は、以前の研究ではSIVsmH635FC接種ザル4頭全頭でみられたが、今回はMM621以外のサルではみられなかった。この結果は、B404-class抗体誘導を決定する因子がウイルス側だけでなく、宿主側にも存在していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定通り、SIVsmH635FC接種ザルの経時的なリンパ節検体から抗体のライブラリを構築し、ファージ・ディスプレイ法によってEnv特異的なモノクローナル抗体を分離することができた。中和抗体の遺伝子解析の結果、各サルごとに異なった抗体遺伝子を使用する中和抗体が誘導されており、アカゲザルMM617はVH1.53、MM618はMM4.38、MM621はVH3.33、MM622はVH5.7を使用する中和抗体が多かった。以前の研究で高頻度に誘導がみられたB404-class抗体は、MM621だけで誘導されており、他のサルからは全く分離されなかった。MM618からは、感染後12, 24, 51, 55週で継続的に同じ系統の中和抗体が分離され、抗体の成熟過程を系統樹により示すことができた。MM622からも感染後24, 51, 55週で同じ系統の中和抗体が分離されており、体細胞突然変異による抗体の成熟過程を解析することができた。 分離された中和抗体の様々なSIV株に対する中和活性を調べたところ、多くの中和抗体は、接種したSIVsmH635FC株と、遺伝的に非常に近縁で中和抵抗性のSIVsmE543-3、それに遺伝的には離れているが中和感受性のSIVmac316を中和した。遺伝的に少し離れていて中和抵抗性のSIVsmH805株への中和活性はMM618から分離した6抗体で検出され、特に感染後55週に分離した1抗体は遺伝的に離れていて非常に中和抵抗性のSIVmac239株も中和することができた。この抗体は、その広い中和活性から、B404-class抗体とは異なる新たなbnAbであることが示された。
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