研究課題/領域番号 |
18K06032
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
桑田 岳夫 熊本大学, ヒトレトロウイルス学共同研究センター, 特定事業教員 (70346063)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | SIV / 中和抗体 / 遺伝子多型 / アカゲザル |
研究実績の概要 |
近年、多様なHIV-1株を広範に中和する抗体(bnAb)が分離され、bnAbを誘導することが、効果的なHIV-1ワクチンの開発に重要であると考えられるようになった。しかしながら、HIV-1感染によるbnAbの誘導は稀であり、そのメカニズムも不明である。本研究では、bnAb B404に類似した抗体(B404-class抗体)を高頻度に誘導するSIV感染サル・モデルを用い、bnAb誘導の解析を行った。 SIVsmH635FC株を接種した6頭のアカゲザルの採血とリンパ節のバイオプシーを行い、抗体のライブラリを構築して、ファージ・ディスプレイ法によるSIV Envを抗原としたバイオパンニング法によりEnv特異的な抗体を分離した。前年度の解析から、B404-class抗体は抗体応答が弱いMM621だけで分離されており、他の4頭からはB404-class抗体は分離されなかった。B404-class抗体の誘導は、以前の研究ではSIVsmH635FC接種ザル4頭全頭でみられたことから、B404-class抗体誘導を決定する因子がウイルス側だけでなく、宿主側にも存在していることを示唆していると考えられた。そこで、今回と前回の実験に使用した10頭のサルから、B404-class抗体が使用する抗体重鎖遺伝子のVH3.33をPCR法によって増幅してクローニングし、その塩基配列を決定した。その結果、VH3.33遺伝子の38番目(E/V)、65番目(T/I)が異なるET, VI, VTの3つのalleleを同定した。B404-class抗体が誘導されていた5頭のサルは全頭がET alleleを持っていたが、誘導されなかった5頭は全てVI alleleのホモ接合体であった。この結果は、bnAb B404の誘導がVH3.33遺伝子の多型によって決定されていることを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、抗体germlineの解析は来年度に行うことになっていたが、今年度にB404-class抗体の重鎖遺伝子であるVH3.33の解析を行い、すでに抗体誘導と相関する遺伝子多型を特定した。VH3.33遺伝子の解析には、VH3.33遺伝子全体を増幅するが、他のVH遺伝子も増幅してしまう系と、VH3.33遺伝子の一部を特異的に増幅する系の2つの系を使用し、VH3.33遺伝子の遺伝子多型をあきらかにした。このように早く研究が進んだのは、SIVを接種したサル6頭中1頭でしかB404-class抗体の誘導が見られず、当初想定していたよりもB404-class抗体誘導における宿主因子の影響が大きいことが示唆されたことと、B404-class抗体が使用している抗体重鎖遺伝子のVH3.33の解析が、他の抗体遺伝子より容易であったためである。 一方、抗体遺伝子の解析に注力したため、当初行う予定であったウイルスの遺伝子解析については、ほとんど進展していない。これはB404-class抗体誘導が宿主因子に大きく影響されており、ウイルス側の要因は小さいと考えられたためである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果から、B404-class抗体誘導を決定している宿主側の要因がVH3.33遺伝子の多型であることが示された。今後は、この遺伝子多型がSIV Envへの結合に及ぼす影響をあきらかにしていきたい。このために、B404抗体遺伝子を体細胞突然変異が起こる前のVH3.33遺伝子のET, VI, VTの3つのalleleに入れ替えた変異体を作成する。また、これらの遺伝子変異を部分的に持った変異体も作成する。これらの変異体のSIV Envへの結合を調べ、遺伝子多型の影響を解析する。 また、VH3.33遺伝子の遺伝子多型がB404-class抗体誘導に与える影響をより詳細に調べるため、SIV感染サルのリンパ節で発現している抗体遺伝子をNext generation sequencing (NGS)で解析する。VH3.33遺伝子全体を増幅するが、他のVH遺伝子も増幅するプライマーを用いてリンパ節で発現しているVH遺伝子を増幅してNGSライブラリーを作成する。miseqによってNGS解析を行い、B404-class抗体に近い配列や、VH3.33遺伝子のET, VI, VTの3つのalleleのsequenceの有無や量を調べる予定である。これによってB404-class抗体を誘導したサルではB404-class抗体とET alleleが存在し、他のサルではそのようなsequenceがないことを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画 に変更があり、当初来年度に予定していた抗体germlineの解析を今年度に行ったため、使用額に変更が生じた。このため残高を来年度に繰り越し、今年度に同定した抗体germlineの遺伝子多型が抗体の活性に与える影響を解析するために使用する。
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