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2020 年度 実施状況報告書

細胞選択的ノックアウトマウスで明らかになるエネルギー代謝分子USP2の役割

研究課題

研究課題/領域番号 18K06035
研究機関酪農学園大学

研究代表者

北村 浩  酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (80312403)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワードエネルギー代謝 / USP2 / ユビキチン / 視床下部 / 運動精子 / マクロファージ / 交感神経 / ノックアウトマウス
研究実績の概要

1. 昨年までに腹側視床下部にUSP2の選択的阻害剤を投与すると交感神経の活動が変化することを見出したが、視床下部-下垂体-副腎皮質系などには変化がみられなかった。血糖値の変化がみられたが交感神経の活動の変化によることを明らかにした。一方、視床下部で活性酸素種の増加が認められ、活性酸素を取り除くと交感神経活動や血糖値の変化は軽減した。一方、培養神経細胞株のUSP2を阻害したところ活性酸素種の蓄積が認められた。つまり視床下部のUSP2によるエネルギー代謝制御に視床下部での活性酸素種の蓄積の多少が関係することが示唆された。
2.神経選択的Usp2欠損マウスを長期飼育すると、顕著な体温の変化を維持する個体が一部生じた。
3.骨格筋損傷におけるUSP2の役割を調べるためにマウスの骨格筋から衛星細胞を分離する手法を確立した。
4.前年度の検討でマクロファージ選択的Usp2欠損マウスの精子の運動性が低下することを見出したが、運動性の低下は凍結精子でより顕著であることを明らかにした。この時、マクロファージ選択的Usp2欠損マウス由来の精子はミトコンドリアの酸化的リン酸化が障害され、ATPの蓄積量が減少した。また、カルシウムの流入に伴う活性化も阻害された。一方、マクロファージ選択的Usp2欠損マウスではテストステロン量やそのシグナルは影響がなかったが、精巣マクロファージのGM-CSFの産生能が低下した。そこでGM-CSFでUsp2欠損マウス由来の精子を刺激したところ、精子のミトコンドリア活性やATP蓄積量は回復し、運動性も有意に改善した。しかしながら、カルシウムの流入や活性化についてはGM-CSF処置の影響は認められなかった。以上のことから、精巣マクロファージのUSP2はGM-CSFを介して間接的に精子のエネルギー代謝の維持やそれによる運動性の制御に関わることが証明された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

1.これまで精巣のマクロファージがライディッヒ細胞の成熟などを制御し、精巣の発生や精子の形成に一定の役割を示すことは示されてきたが、それ以外のマクロファージの役割やその関与分子については情報が圧倒的に少ない。当初予定にない研究課題であるが、USP2がマクロファージによる精子機能制御の鍵分子であることを明らかにできたのは大きな成果と考える。更に、この役割には精子のエネルギー代謝制御が含まれており、またその制御にGM-CSFが関与することを明らかにするなど、精巣でマクロファージのUSP2を鍵に展開されるエネルギー代謝制御軸の存在を明らかにできたことは大きな進展だった。
2.視床下部のUSP2が視床下部-下垂体-副腎皮質系に影響を与えることなく、交感神経を介してエネルギー代謝制御をしていることを明らかにできた。さらにこの現象に関わる分子(活性酸素種)を個体と細胞株双方で明らかにできた。こういったデータから当初目標としたUSP2による中枢性のエネルギー代謝制御を証明する知見が得られたので、概ね順当な成果を得たと考える。
3.骨格筋の筋異常におけるUSP2の役割については、1)の解析に注力した結果、筋損傷や運動負荷時の骨格筋でのUSP2の役割についての個体レベルの検証が遅れた。しかしながら、マウス後肢の骨格筋からの衛星細胞の分離方法について習得できたので、今後、個体レベルでの知見について詳細な分子機構を解明するための培養細胞実験系が確立できたので、一定の成果は得られたと考える。
4.Usp2欠損マウスの繁殖・生産において、計画当初に想定した数の個体がなかなか得られなかったことも骨格筋でのUSP2の役割解析が遅れた理由である。

今後の研究の推進方策

1)USP2によるニューロンでの活性酸素の蓄積機構についてさらに調査を進める。これまで活性酸素の蓄積については蛍光プローブで評価をしてきたが、生じた活性酸素による酸化ストレスの大きさを過酸化脂質量や酸化型グルタチオン量からも評価する。さらにUSP2による活性酸素産生量の制御の有無を検証するために、USP2阻害剤やUsp2遺伝子欠損がNADPHオキシダーゼやミトコンドリアの呼吸鎖複合体などに与える効果を調べる。更にスーパーオキシドディスミューターゼやカタラーゼ、還元型グルタチオンなど活性酸素の除去系の役割についても検証する。また、神経細胞におけるUSP2の直接的な分子標的を探索する。
2)これまでの検証で全身性のUsp2欠損マウスや骨格筋選択的なUsp2欠損マウスの骨格筋に塩化バリウムを投薬すると筋再生が遅れるという知見が得られたが、この知見を確認すると共に、両Usp2欠損マウスでの表現型の違いを調べる。更にトレッドミルによる運動負荷の効果に対するUSP2の役割も検証する。またUsp2欠損マウスの分離衛星細胞の増殖、分化、エネルギー代謝能について評価を進める。
3)これまでに骨格筋選択的Usp2欠損マウスに2型糖尿病誘導するとインスリン感受性の悪化がみられたのでその分子機構の解明を試みる。インスリンシグナル分子のリン酸化について検証中であるが、解糖系や電子伝達系の律速酵素や活性酸素産生・消去系へのUSP2欠損の効果を検証する。

次年度使用額が生じた理由

1)Usp2欠損マウスが自然出産の効率が当初想定した計画と比べ悪かった。またこの系統の新生仔に対する食殺行為が頻繁に確認されたことから、結果的に研究に必要な数のマウスの確保に時間をとってしまった。
2)精巣マクロファージのUSP2による精子のエネルギー代謝制御・運動制御という予想外の成果が得られたことから、その解析に時間をとった。特に骨格筋の解析が遅れたことから、これに用いる試薬等の購入が2020年度中に実施されなかった。

備考

大学プレスセンターでの成果公表記事。毎日新聞社や北海道新聞社などのオンライン記事として紹介された。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Monash University(オーストリア)

    • 国名
      オーストリア
    • 外国機関名
      Monash University
  • [雑誌論文] USP2-Related Cellular Signaling and Consequent Pathophysiological Outcomes2021

    • 著者名/発表者名
      Kitamura Hiroshi、Hashimoto Mayuko
    • 雑誌名

      International Journal of Molecular Sciences

      巻: 22 ページ: 1209~1209

    • DOI

      10.3390/ijms22031209

  • [雑誌論文] Macrophage ubiquitin-specific protease 2 contributes to motility, hyperactivation, capacitation, and in vitro fertilization activity of mouse sperm2020

    • 著者名/発表者名
      Hashimoto Mayuko、Kimura Shunsuke、Kanno Chihiro、Yanagawa Yojiro、Watanabe Takafumi、Okabe Jun、Takahashi Eiki、Nagano Masashi、Kitamura Hiroshi
    • 雑誌名

      Cellular and Molecular Life Sciences

      巻: 78 ページ: 2929~2948

    • DOI

      10.1007/s00018-020-03683-9

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Lipin-2 degradation elicits a proinflammatory gene signature in macrophages2020

    • 著者名/発表者名
      Watahiki Asami、Shimizu Kouhei、Hoshikawa Seira、Chiba Mitsuki、Kitamura Hiroshi、Egusa Hiroshi、Fukumoto Satoshi、Inuzuka Hiroyuki
    • 雑誌名

      Biochemical and Biophysical Research Communications

      巻: 524 ページ: 477~483

    • DOI

      10.1016/j.bbrc.2020.01.119

  • [学会発表] 精巣マクロファージのユビキチン特異的プロテアーゼ2が精子機能に与える影響2020

    • 著者名/発表者名
      橋本茉由子、木村俊介、菅野智裕、柳川洋二郎、渡邉敬文、岡部潤、高橋英機、永野昌志、北村 浩
    • 学会等名
      第43回日本分子生物学会年会
  • [備考] 酪農学園大学の北村浩教授らが活発な凍結精子を得るのに必要な酵素を発見

    • URL

      https://www.u-presscenter.jp/article/post-44651.html

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公開日: 2021-12-27  

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