生体における遺伝子の機能を調べるにはコンディショナルノックアウトマウスを用いた解析が有効であるが、その作製にはES細胞が必須であり、解析に多くの時間を要する。我々はES細胞を用いずにより簡便に遺伝子機能の解析を可能とするコンディショナルレスキュー法(cR法;特許6327712)を考案した。 本研究においてはcR法をもちいて胚発生における左右軸の決定や人の多発性嚢胞腎の責任遺伝子であるInv遺伝子に対するコンディショナルレスキューマウス(cRマウス)の作成を試み、実際にその遺伝子変異によって生じる完全内蔵逆位の表現型がレスキューされたcRマウスの作成に初めて成功した。このcRマウスと神経組織特異的なP0-Creマウスとの交配で得られたマウスでは神経組織特異的にInv遺伝子の欠失が誘導されることから、組織特異的にレスキュー遺伝子を欠失させるcR法の有効性が明らかにされた。また、レスキュー遺伝子の発現を蛍光タンパク質の発現からリアルタイムで観察可能な第2世代のコンディショナルレスキューベクターを開発し、in vitro の実験系において、Inv遺伝子の発現を制御された細胞の挙動を2色の蛍光蛋白質の発現を指標としてタイムラプス観察を行うことに成功した。さらに、この第2世代のベクター系をもちいて、Inv遺伝子ならびに幹細胞の増殖や分化に必要とされるリガンド分子であるSl遺伝子をターゲットとした第2世代のcRマウスの作成を行った。 本研究で開発したcRマウスの作製手法は、今後多くの遺伝子の機能解析や疾患関連遺伝子の研究や治療に広く適応されることが期待される。また今回の研究で作成されるInvならびにSl遺伝子に対するcRマウスは単なるnull変異マウスでは無く、その欠失が誘導可能な新規の実験モデルマウスならびに疾患モデルマウスとして多くの研究に有効的に活用されることが考えられる。
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