研究課題/領域番号 |
18K06039
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中武 悠樹 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (20415251)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 転写制御 / 恒常的プロモータ / 発現ベクター |
研究実績の概要 |
本研究では、既存のCAGプロモータを超える、汎用性の高いプロモータを同定することを目的としている。前年度では、下流遺伝子の恒常的発現を誘導するプロモータを新規に同定し、発現ベクターとして利用し、その有用性を評価した。申請書に記載されている手順に従い、In-Silicoにて、高発現する遺伝子を網羅的に同定し、EEF2、TPT1、RPL27、RPL11、OAZ1、TUBA1BおよびHSPA8のプロモーター活性を、ヒト及びマウスembryonic stem(ES)細胞にて検出できていた。 前年度までの研究では、筋細胞での活性を測定していたが、異なる細胞系譜での活性計測が必要と考えられた。このため本年度では、NEUROG3遺伝子をヒトES細胞に誘導できる、神経モデル細胞にて、これら候補遺伝子のレポーターコンストラクトを導入し、遺伝子誘導の有無を比較した。特に、転写活性化能に変化がみられるか、既存のCAGプロモータと比した活性の程度に注視し、検討した。 この結果、検討したすべての候補遺伝子のプロモーターは、CAGプロモーターよりも活性が同程度か弱いことが明らかになった。これは、NEUROG3誘導後に神経細胞へと分化しても同様の傾向であった。一方、CAGプロモーターに比べ、TPT1およびHSPA8のプロモータ活性は、NEUROG3遺伝子誘導の有無で、活性の差が少なく、安定的なプロモーターであることが示唆された。今後、人工的な配列を解析に取り込む必要が考えられるため、In Silicoにて解析と探索を進めつつ、既に得られている結果については取りまとめ、論文投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた研究計画では、CAGプロモーターよりも強力なプロモータが取得できることを前提としていたが、予想に反してCAGプロモータが依然として最強であった。本研究のようなアプローチで体系的にハウスキーピング遺伝子のプロモータを解析した例はなく、この知見自体は、貴重だと考えている。今年度は、前年度で検討していた筋細胞以外の神経細胞系譜で検討することができ、再現性が確認できたといえる。コントロールとして、ヒトのACTB遺伝子のプロモータ活性も検討しているが、こちらもCAGプロモータの活性に及ばないことから、CAGプロモータの活性は、人工的に付与されているCMVエンハンサーの効果によるものが大きいと考えられる。また、人工的につなぎ合わされているウサギグロビン遺伝子のイントロンも、発現強度の上昇に寄与している可能性も考えられる。また、ACTBは外胚葉系の細胞系譜で強い発現の傾向があるため、よりニュートラルな本研究で同定した遺伝子のプロモーターを、CAGのニワトリACTBのプロモータと入れ替えることで、活性の安定化および強化につながることも想定され、検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの申請者の研究から、高発現しているハウスキーピング遺伝子のプロモータを取得し、新規に解析できており、基本的な細胞内での転写活性について、分子生物学的な基本的な解析が完了している。マウスおよびヒトで種の違う細胞においてデータを得ており、ヒトに関しては神経細胞および筋細胞での活性の評価が完了した。活性の高さに関しては、残念ながらCAGを上回ることはできなかったものの、安定性においては上回ることができたため、これらの結果をまとめ、論文発表を行う。 今年度までは、内在性のプロモータ活性を直接利用してきたが、限界が明らかなため、人為的な配列を組み込む戦略に切り替えていく予定である。具体的には、生物の活性を人工的に創出するため、配列のデザインをおこなう。これは、既に同定している転写量の多い遺伝子群から、プロモータ領域の配列情報を取り出し、共通項を見出すことで達成可能だと考えている。既に同定している遺伝子群は300遺伝子ほどあるため、これらの配列情報を取り出し、共通するモチーフをレポーターに配置する。また、モチーフが明らかとなれば、そのモチーフを反復させるなど、様々な工夫を組み込むことが可能なため、まずは暫定的な候補モチーフを決定したい。このような人工的な配列による生命現象のコントロールは、合成生物学的な視点からも興味深いものであり、今後の研究の発展によっては、全く想定しなかったブレイクスルーにつながると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
若干の次年度使用額があるが、この金額は不要不急な消耗品を購入しなかったため生じたのであり、妥当に使用されていると考えられる。
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