研究課題/領域番号 |
18K06040
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
三浦 浩美 東海大学, 医学部, 特任助教 (90599523)
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研究期間 (年度) |
2020-03-01 – 2022-03-31
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キーワード | ゲノム編集効率 / 次世代シークエンス / 疾患モデルマウス作製 |
研究実績の概要 |
2020年度は、主に以下の二つを進めた。 一つ目として、ゲノム編集評価系マウスを用いた、肝臓におけるゲノム編集効率の詳細な定量的評価を行なった。このマウスは蛍光遺伝子の発現を指標にゲノム編集効率を評価できるが、今回、以下の3通りの解析法を用いた。1)組織そのものを蛍光実体顕微鏡を用いて撮影し、画角内における蛍光スポット数を算出、2)凍結組織切片を作製し、蛍光顕微鏡を用いて蛍光発現細胞の割合を算出、3) 肝細胞を単離してフローサイトメトリー解析を行うことによりGFP陽性細胞の割合を算出、である。1では、Cas9発現フラスミドDNA ではなくCas9タンパク質(5μg/ml)を用いることで最大のゲノム編集効果が得られることが明らかとなった。2の解析では、蛍光陽性細胞の割合はプラスミドDNAで約5%であり、タンパク質で約8%であった。3のFACS解析では(Cas9タンパク質を使用)、4.6%の肝細胞がGFP陽性であった。これらの解析では、ゲノム編集後に読み枠が回復したGFPアリルを有する細胞のみしか蛍光を発しない。そこで次に、ゲノム編集アリル全体の頻度を定量するために次世代シークエンスを行なった。その結果、5μg/mlのCas9タンパク質を用いてハイドロダイナミクス法による肝臓のゲノム編集実験を行った場合、蛍光を発しない細胞も含めて約17%の肝細胞がゲノム編集されることが推定された。 二つ目としては、今後の遺伝子治療法開発に有用な疾患モデルマウスの作製を試みた。毛色(皮膚)疾患の1つとしてアルビノの評価系モデルは既に樹立済みであるが、今年度は、肝疾患モデルとして、ヒト型変異を有するフェニルケトン尿症のモデルマウスの確立(日本人や東アジア人に特有の変異を有する2種類の独立した系統の樹立)に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
評価系モデルマウスにおけるin vivoゲノム編集効率を様々な解析法を用いて評価することで、本モデルマウスの特徴を深く理解することができ、また実際にこれらの成果を論文化することができた(Miura et al. Molecular Therapy Nucleic Acids. 2021)。また、本研究で最終目的としている「遺伝子治療の効果を評価」するために必要な、疾患モデルマウス(皮膚、及び肝臓を標的としたもの)の作製も完了している。しかしながら、上記論文のリバイスのために様々な実験を追加することになり、半年を要してしまったことから、次の大きな課題であるデリバリー効率の検討実験に時間を割くことができなくなってしまった。今後、皮膚や肝臓への効率なデリバリー法の立ち上げも行いたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
肝臓においては、ハイドロダイナミクス法での試薬送達条件の最適化に成功しているため、本手法を用いて実際に疾患モデルマウスへの遺伝子治療効果を検討する。また、デリバリー効率によっては遺伝子治療効果が得られない場合も懸念されるため、並行してアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療法の確立にも挑戦したいと考えている。その効率の検討にはゲノム編集評価系マウスを用いる。皮膚に関しては、エレクトロポレーションを用いた我々のこれまでの実験においては、試薬の導入が局所的であり、且つ効率も低いものであったため、皮膚に関してもAAV遺伝子導入系の確立を行い、その上で疾患モデル動物における治療効果を検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大防止等の影響もあり、特に年度はじめに計画通りに実験を進めることが困難であった。また、本研究を進めている過程で、計画していた方法では「デリバリー効率の低さ」が影響し遺伝子治療効果が得られない可能性が高いことが示唆されたため、AAVによるデリバリー法を活用することにした。AAV系の導入を目指した手続きやベクター入手等に少し時間を要し、その確立と実際の動物への応用が次年度にずれ込んだ。そのため、2020年度の予算の使用額減少に繋がった。次年度に実験を行うための経費として使用したいと考えている。
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