研究課題/領域番号 |
18K06052
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
加藤 広介 筑波大学, 医学医療系, 助教 (90466673)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | テロメア / テロメラーゼ / がん / クロマチン / エピジェネティクス / ヒストンシャペロン |
研究実績の概要 |
本研究課題では、哺乳類細胞のクロマチン制御因子TAF-Iによるテロメアの構造と機能の制御機構を解明することを目的とし、(1)TAF-Iによるテロメラーゼ酵素サブユニットTERT遺伝子のエピジェネティックな発現制御機構と、(2)TAF-IによるテロメアDNA-タンパク質複合体を介したテロメア機能の制御機構の2つについて解明を目指している。 まず(1)については、TAF-I KDによるTERT遺伝子転写開始点周辺のDNAメチル化亢進のメカニズムについて調べた。DNA脱メチル化は、一般的にTETによるシトシンの5ヒドロキシメチル化(5hmC)を伴う。そこで、抗5hmC抗体を用いたDNA免疫沈降アッセイを行ったところ、野生型とTAF-I KD細胞で5hmCのレベルにほとんど差は見られなかった。これより、TAF-IによるTERT遺伝子座のDNAメチル化レベルの変化は、TETに依存した経路によらない可能性が示唆された。次に、TAF-IがTERT遺伝子座におけるDNAメチル化酵素DNMTの結合量を変化させるのではないかと考え、DNMT1の抗体を用いてクロマチン免疫沈降を行ったが、予想に反して野生型細胞とTAF-I KD細胞間でDNMT1結合量に顕著な差は見られなかった。 次に(2)について解析を進めた。EGFPを融合した3つのテロメア結合タンパク質TRF1、TRF2およびRAP1をそれぞれ発現させたU2OS細胞でTAF-IをKDし、FRAP法により各テロメア結合タンパク質の核内動態を調べたところ、TRF1とTRF2で顕著な低下が見られた。また、TRF1、TRF2、RAP1の精製タンパク質を調整し、同じく精製したTAF-Iとの試験管内での相互作用を検証したところ、TAF-IはTRF1およびTRF2と直接相互作用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
TAF-IによるTERT遺伝子の転写制御については、平成30年度においてDNAのメチル化及びヒストン修飾を介したエピジェネティックな制御によるものであることまで明らかにしていた。令和元年度ではこのメカニズムについて詳細な解析を目指した。しかし、本来想定した仮説とは異なっており、TAF-IがDNAメチル化を制御するメカニズムの詳細を明確に出来ていない。これには実験に使用できる抗体を入手出来ていないなどの技術的な面も含まれており、至急に実験手法の改善などが必要である。またTAF-IによるTERT遺伝子のエピジェネティックな転写制御は、当初想定していたクロマチン構造制御を介したものではない可能性も出てきているため、今後の研究推進の方向性の修正も必要である。 TAF-Iによるテロメアクロマチン構造の直接的な制御機構の解析に関しては、TAF-Iの直接的な標的と想定されるテロメア局在タンパク質を同定出来たと考えている。しかし、テロメアクロマチンの細胞レベルでの解析はまだ手法を確立できていないため、こちらも急ぐ必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
TAF-IによるTERT遺伝子の転写制御機構は想定よりも複雑なメカニズムである可能性があり、その解明のためには今後siRNAライブラリーなどを用いる遺伝学的スクリーニング系を立ち上げてゆく必要があり、これらの実験は当初想定した以上の時間を要すると考えられる。そこで、メカニズムの解析とは別に、現在解析を行っている細胞の不死化およびがん化過程におけるTAF-Iの寄与を明らかにし、これまでの結果と合わせて論文報告したいと考えている。 また、TAF-Iによるテロメアクロマチンの構造制御機構については、TTRF1とTRF2の機能にTAF-Iが与える影響について、生化学的解析および細胞生物学的解析の両面から解明を目指す。また細胞でのテロメアクロマチン構造を解析する手法を確立し、TAF-Iの影響を検証していく。またその生物学的意義を明らかとするため、TAF-IがテロメアDNAの安定性に与える影響や、細胞の不死化およびがん化における機能などを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
TAF-IによるTERT遺伝子の発現調節機構について、令和元年度では初年度に引き続きエピジェネティックな転写調節機構の解析を行った。本来であればDNAメチル化の制御因子などいくつかの重要な因子の関与を明らかにし、そこを皮切りに周辺因子も含めた包括的なメカニズムの解析を行う予定であった。しかし、根本的にクロマチン制御とは異なるメカニズムを介する可能性が見いだされてきた。これにより、多数のクロマチン制御因子の解析に予算を使用する予定であったところを、シグナル伝達をはじめとしたより幅広い機構の解析を行う必要性が出てきており、再度予算の使用計画を一部修正する必要が生じたためである。最終年度は本研究計画の修正を速やかに行い、それに伴って予算の使用計画も変更を行ってゆく。またTAF-Iによるテロメアクロマチン構造の制御機構の解析については、当初計画通りに予算を使用していく予定である。
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