研究課題/領域番号 |
18K06055
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富岡 征大 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40466800)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 選択的スプライシング / 学習 / 神経細胞 / 線虫 |
研究実績の概要 |
前年度までの解析により、RNA結合タンパク質MBNLの線虫ホモログMBL-1の変異体は、線虫の示す学習行動である「味覚忌避学習」に異常を示すことが明らかになっていた。MBL-1は選択的スプライシングを制御することから、線虫の学習行動にはMBL-1を介する選択的スプライシングが働く。本年度は、MBL-1変異体で野生株と比べて顕著にスプライシングパターンが変化する4種の遺伝子が学習行動を制御する可能性を検討した。 注目する4種のMBL-1のターゲット遺伝子候補のうち、3種は運動性異常や不稔などの表現型を示すため、loss-of-functionの変異体を用いた行動解析は困難であった。そこで、細胞腫特異的にゲノム編集を行い目的の遺伝子の機能を低下させる手法(somatic CRISPR/Cas9法)を用いて、4種すべてのターゲット遺伝子について、神経系における機能を低下させた場合の学習行動への影響を調べた。その結果、MBL-1変異体が示すものと同様の異常が、4種の遺伝子をそれぞれ神経系において機能低下させた時に観察された。従って、MBL-1により制御される4種のスプライスアイソフォームが協調的に線虫の学習行動を制御する可能性が示唆された。MBL-1とそのターゲット分子群が機能する神経細胞腫をさらに絞り込むため、特定の神経細胞腫特異的に遺伝子機能を低下させる手法の検討を行い、注目する味覚神経や介在神経において特異的に遺伝子機能を低下させる条件を見出している。 上記と並行して、MBL-1を介するスプライシングの制御は、学習に依存して変化する可能性を考え、学習行動を引き起こす条件付け前後の線虫よりtotal RNAを抽出しRNAseq解析を行い、スプライシングの変化を含めた遺伝子発現変化をゲノムワイドに調べるための解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MBL-1とそのターゲット候補遺伝子が学習行動において機能する細胞腫の同定に関して、神経系に絞り込むことに成功した。一方で、神経系の中のどの神経細胞腫で機能するのか、また、神経系において注目する遺伝子群がどのような仕組みで学習行動を制御するのか、その解明には至らなかった。主な理由としては以下のことが考えられる。 ・somatic CRISPR/Cas9法の条件検討において、Cas9やガイドRNAの高発現による行動への影響が予想外に大きく見られたため、両者の最適な発現量の検討に時間を要した ・COVID-19の影響により、年度末から研究活動の低下を強いられたため、研究の進展が遅れた(研究室の高性能PCが必要とされるRNAseqのデータ解析に関して特に影響を受けた) ・研究協力者の大学院生が年度の始めに急遽休学したため、予定していた研究計画の一部変更を強いられた。
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今後の研究の推進方策 |
MBL-1が主導するスプライシング制御が、学習行動を制御する分子及び神経回路レベルの仕組みを理解するために、以下の点を明らかにする。 ・Somatic CRISPR/Cas9法を用いて、MBL-1とそのターゲットとして注目しているシナプス伝達に関わる4つの遺伝子の、学習行動制御における機能細胞を明らかにする。本年度までの研究により、MBL-1によるスプライシング制御は神経系において必要であることが既に分かっているので、神経系における神経細胞腫をさらに特定する。 ・MBL-1によるスプライシング制御は、神経細胞腫においてどのような機能を調節するのか、この制御が働く神経細胞腫やその下流の神経細胞腫の活動をカルシウムイメージングにより観測することで、MBL-1が神経回路機能をどのように調節するのかを調べる。また、MBL-1が制御するターゲットエクソンに欠失変異を導入した変異体を作成し、行動解析や学習に関わる分子の変異群とのエピスタシス解析により、MBL-1が機能調節する分子機構を明らかにする。 ・学習により変動する選択的スプライシングイベントをRNAseqの解析によりリストアップし、その中で、MBL-1が働く神経回路で働くものやMBL-1に依存したスプライシング制御を受けるものなどに注目し、MBL-1が主導する遺伝子発現制御が学習行動を制御するしくみのモデルを構築する。 以上の研究結果をまとめて、学術誌への投稿を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況の理由」に詳しく記載した通り、最適な実験条件を見つけるための検討に予想外に時間がかかった点、研究協力者が急遽休学になった点、COVID-19の影響により、当該年度に予定していた実験の一部を行うことが困難となった。そのため、「今後の研究の推進方策」に詳しく記載した通り、遺伝子組み換え線虫を用いた行動解析、カルシウムイメージング、RNAseq解析等を次年度に行う。また、それと並行して次年度予定していた学術論文の投稿費用等と合わせて、当該助成金は、上記の実験に要する消耗品費用として使用する予定である。
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