研究課題/領域番号 |
18K06055
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富岡 征大 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40466800)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インスリン / RNA結合タンパク質 / ホスホリパーゼC / ニューロペプチド |
研究実績の概要 |
本研究は、線虫C. elegansにおける細胞種特異的選択的スプライシングに注目し、その制御機構や役割を明らかにすることで、多様な生命活動を作り出す遺伝子発現調節機構の新しい仕組みを明らかにすることを目的とする。2021年度の研究において、神経細胞種特異的な選択的スプライシングにより産生される線虫インスリン/IGF-I受容体アイソフォームDAF-2cの産生機構及び学習行動制御に関して、以下のことを明らかにした。 -変異体及び過剰発現株を用いたリン酸化プロテオーム解析により、DAF-2cは神経系において特定のファミリーのRNA結合タンパク質(RBP)のリン酸化を促進することを明らかにした。このRBPファミリーはdaf-2遺伝子の持つカセットエキソンE11.5の包含を促進することでDAF-2cの産生を促進する働きをもつ。従って、DAF-2cはRBPのリン酸化を介したポジティブフィードバック制御により自身のアイソフォームの産生を促進するという発現制御機構が働く可能性が示唆された。 -神経細胞種特異的に産生されるDAF-2cの神経系における役割として、神経細胞種特異的ゲノム編集技術などを用いた遺伝学的解析により、DAF-2cはASER味覚神経において2種のホスホリパーゼCアイソザイムを制御することで線虫の学習行動を調節することを明らかにし、学術論文にて研究成果を発表した。また、リン酸化プロテオーム解析により、DAF-2cがリン酸化を促進するニューロペプチド受容体を同定し、この受容体及び同一ファミリーに属する受容体の変異体において、学習行動に異常を示すことを明らかにし、DAF-2cがニューロペプチドシグナルを調節することで学習行動を制御する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
リン酸化プロテオーム解析により明らかにした、選択的スプライシングにより細胞機能の多様性を作り出す幾つかの候補遺伝子において、その変異体をデータバンクより取り寄せて解析に用いたところ、目的の変異以外の変異による影響がみられた。解析を進めるにつれてその事実に気づいたが、この予想外の現象により研究の遂行が予定よりも遅延した。一方で、2021年度はこれまでの研究成果を学術論文として発表し、さらに、新たな実験結果から新しい2つの仮説が示唆されるなど、一定の研究成果を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の解析により示唆されたDAF-2cの発現制御機構および役割に関して、さらなる解析によりその詳細なしくみを明らかにする。 -RNA結合タンパク質(RBP)のリン酸化を介したDAF-2c産生のフィードバック制御機構に関して、RBPのDAF-2cによる予測リン酸化部位への変異導入の効果を、学習行動アッセイやDAF-2c産生をモニターするスプライシングレポーター解析により調べる。これにより、RBPのリン酸化によるフィードバック制御が特定の選択的スプライシングを増強させる新しいしくみを確立する。 -DAF-2cがリン酸化制御するニューロペプチド(NP)受容体、及びそれと同一ファミリーに属する受容体の機能をさらに明らかにするために、NP受容体が調節するシグナル伝達経路及びこれらの受容体のリガンドを同定する。さらに、NP受容体のDAF-2cによる予測リン酸化部位への変異導入の学習行動への影響を調べることで、ニューロペプチドシグナル伝達との相互作用を介して学習行動を制御するDAF-2cの働きを確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス蔓延防止のための活動制限により一時期実験作業のレベルが低下したこと、「現在までの進捗状況」に記したように予想外の現象により研究の遂行が遅延したことにより、2021年度に遂行予定であった解析の一部を次年度に持ち越すこととした。2022年度に行う解析結果を含めて本研究をまとめ、その成果を学術誌や学会等でその成果を発表する予定である。
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