研究実績の概要 |
本年度は、本研究課題のメインテーマであるtRIP法の駆使により、RNA結合蛋白SRSF3の新規機能を発見し、その成果を国際的に高い評価を受けているEMBO journal誌に発表した。特に査読によるコメントに対する追加実験に時間を費やし、十分な実験を行うことで、論文受理された。発見内容の概要は、以下のとおりである。 SRSF3のスプライシング標的エクソンは、大半が転写関連遺伝子の構成的エクソンであり(選択的でない)、エクソン長が長く(数百塩基程度、通常120塩基)、アミノ酸P,Sに富んだ天然変性領域(IDR)をコードするという他に類を見ない特徴を持っていた。これらのアミノ酸の偏りは、その塩基配列の偏りにつながり、結果的にSRSF3標的エクソン群はC塩基に富んでいる。SRSF3はC-rich配列が標的配列であるため、これら標的エクソンに強く結合することが出来、その結果、これらエクソンのスプライシングを保証する作用を持つに至った。 実験的にSRSF3によるスプライシング機構を破綻たさせたところ、細胞内で様々な転写因子のIDRが欠失してしまい、広範な転写障害と迅速な細胞死が生じた。以上の知見は、SRSF3依存的スプライシングが細胞ホメオスタシスに必須の機構であることを強く示唆する。進化学的解析では、こうした長いエクソン(C塩基に富み、PSに富んだIDRをコードする)は、脊椎動物以降に出現しており、ヒトでは長いエクソンの大半が、この特徴を持つに至っていた。 本研究課題では、tRIP法によるRNA結合タンパクSRSF3の結合サイト解析から始まったが、最終的に、脊椎動物の高度な転写制御機構の発展の獲得・維持の源となったゲノム機構の発見に至った。
|