研究課題/領域番号 |
18K06059
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井木 太一郎 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (20774011)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | miRNA / 分子シャペロン / Argonaute / 遺伝子サイレンシング / 精巣 / 卵巣 / RISC |
研究実績の概要 |
恒常活性型のThickvein (Tkv-CA)を発現させてTGF-β/BMP経路を活性化させることにより、卵巣において生殖幹細胞に近い未分化の細胞群を蓄積させ、その細胞抽出液に存在すると考えられるmiRNA経路の制御因子の探索を進めているが、現在のところ期待された未知因子の同定には至っていない。Tkv-CAと共に発現させたFLAGタグ付与AGO1,Ago2,Dcr1を抗FLAG抗体を用いて免疫沈降による精製を行なっているが、思うような成果は得られていない。RISCの形成が分子シャペロンに依存することから、シャペロン複合体を構成する調節因子の発現がTGF-β/BMP経路によるなんらかの制御を受けており、RISCの形成に際してmiR-278の5p鎖と3p鎖の選択に影響を与えるのかもしれないと考えた。そこで、miRNA経路に関与することが示唆されているシャペロン補助因子であるCyclophilin 40 (Cyp40)とFK506-binding protein 59 (Flbp59)について、コードする遺伝子の機能欠損株をCRISPR/Cas9によるゲノム編集により作成した。その結果、fkbp59機能欠損株は蛹の段階において死に至り、cyp40機能欠損株は精子の成熟異常を示すことが判明した。cyp40機能欠損株の表現型に着目し、精巣のmiRNAの発現を調べた。公開されている雄全体のmiRNAの発現データと比較したところ、複数のmiRNAが精巣特異的に鎖の転換を起こしていることが判明した。今後は、Cyp40が精巣におけるmiRNAの鎖の転換に関与するのか、そして、鎖の転換を起こすmiRNAの精巣における機能を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
TGF-β/BMP経路が活性化した生殖細胞においてmiR-278の鎖の転換を起こす因子が発現していると考え、因子の単離を目指しているが、現在までに候補は得られていない。研究当初はTGF-β/BMP経路の下流において特異的にmiR-278の鎖の転換が起きること考えていたが、雄の個体と精巣において発現するmiRNAの比較においてmiR-278を含む複数のmiRNAについて鎖の転換が起きていることを示唆する結果が得られている。Ago1とAgo2それぞれに結合してRISCを形成しているmiRNAを調べたところ、miR-278-5pはAgo2に効率的に取り込まれているが、miR-278-3pはAgo1に好まれることが明らかとなってきている。miRNAの鎖の転換を誘導する因子は、RISC形成において二本鎖のmiRNAのAgo1とAgo2への分配を制御できるのかもしれない。RISCの形成には分子シャペロンのはたらきが不可欠であることから、シャペロン機能を調節する因子がmiRNAの鎖の転換に関与するのかもしれないと考えた。Hsp90のコシャペロンのひとつであるCyp40の発現は精巣において高い。新たに作成したcyp40の機能欠損株の表現型解析により、Cyp40が精子の成熟に必須の役割を果たしていることがこれまでに判明している。
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今後の研究の推進方策 |
精巣において起きているmiRNAの鎖の転換の制御機構を調べることにより、卵巣におけるTGF-β/BMP経路に誘導されるmiR-278の鎖の転換に関与する因子について示唆する結果が得られるかもしれない。そこで、精巣において必須の役割を果たしていることがわかったCyp40がmiRNAの鎖の転換を制御している可能性を調べる。精巣からAgo1抗体とFLAG抗体を利用してAgo1-RISCとFLAG-Ago2-RISCをそれぞれ免疫沈降により精製する。共精製されるmiRNAをdeep-sequencingにより解析する。miRNAの発現と鎖の選択をcyp40機能欠損株と野生型株の精巣において比較する。cyp40の欠損により発現や鎖の選択が変化するmiRNAに着目する。miRNAの機能欠損株をそれぞれ解析することにより精巣における機能を調べる。一方、卵巣においてCyp40など分子シャペロンの因子がTGF-β/BMP経路により誘導されないかなど検討する。
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