研究実績の概要 |
【研究の目的】 真核生物のゲノムには大量のDNA反復配列が存在し、それらを「のりしろ」に染色体異常が起こる。染色体異常は様々な遺伝性疾患の要因となる。分裂酵母では、セントロメアに存在する逆向き反復配列を介した染色体異常により、染色体腕が左右同一配列となった同腕染色体が形成する。我々は、同腕染色体の解析を通して、反復配列を「のりしろ」にした染色体異常の発生メカニズムの解明を目指している。
【研究の成果】 セントロメア領域はヘテロクロマチン構造を形成する。ヘテロクロマチン構造を破壊すると、RNAポリメラーゼIIや転写因子Tfs1/TFIIS依存的に同腕染色体が大量発生することを明らかにした(Okita et al. 2019; Nakagawa and Okita. 2019)。このことから、反復配列の転写は染色体異常を誘発すると考えられる。組換え因子Rad51は非交叉型組換えを促進することで染色体異常の発生を抑制する(Onaka et al., 2016)。rad51変異株では、Rad52が単鎖DNAアニーリング(SSA)活性によって同腕染色体を形成することを明らかにした(Onaka et al. 2020)。リング状のたんぱく質複合体PCNAはDNA鎖を取り囲んでDNA複製や修復を制御する。rad51変異株では、ユビキチン化酵素Rad8/HLTFがPCNAの107残基目リシン(K107)をユビキチン化することで、Rad52による染色体異常を促進することを示唆した(Su et al. 2021)。これらから、染色体異常は、無秩序に起きるのではなく、様々なたんぱく質が厳密な制御のもとで機能することで起きると考えられる。
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