研究課題
基本転写因子TFIIDはTBPと14種類のTAFから構成される巨大な複合体であり、SAGAとともにコアプロモーター上で働き、TBP-DNA相互作用を制御することによって転写の活性化を行う。我々は、主としてSAGA依存的に転写されるmRNA(のうち少なくとも一部)がRAM-Ssd1p-Mpt5p軸による局所翻訳制御を受ける可能性を新たに見出し、Ssd1p/Mpt5pが標的RNAとともに形成する液滴オルガネラの性状がRAMシグナリングにより変化するとの仮説を立て、現在その検証を試みている。今年度は、本研究の端緒となったdeltaRAM ssd1-d taf1deltaTAND三重変異株における合成致死性に着目し、Taf1pからTAND領域を欠失させた直後の遺伝子発現変化を追跡し得る新たな実験系の構築を試みた。具体的には、染色体上に存在するTAF1のC末端側にオーキシンデグロン(AID)を組み込み、さらにTAND欠失型Taf1pを発現するプラスミドを形質転換した酵母株を作製後、当該株をIAA含有培地中で培養することにより、30分以内にTFIIDを野生型からTAND欠失型へと置換する系を構築した。多コピーのAIDを組み込んだ場合には強い細胞毒性が見られたため、1コピーのみを組み込むこととし、得られた株において、TFIID依存的な転写がIAA添加により特異的に阻害されることを確認した。現在、IAA添加後速やかに三重変異株の状態を再現できる株の構築を進めており、目的の株が得られ次第、遺伝子発現変化の観点から、致死に至る過程の詳細を明らかにする予定である。
2: おおむね順調に進展している
deltaRAM ssd1-d taf1deltaTAND三重変異株は致死となるため、これまで当該株における遺伝子発現変化を直接調べることはできなかったが、オーキシンデグロンの導入により、三重変異株の致死的状態を再現し、解析できる可能性が新たに示されたことから。
Ssd1p, Mpt5pはPボディの構成成分であり、Cbk1p[RAM]によりリン酸化された両タンパク質はPボディから解離し、その結果として標的mRNAの翻訳が可能になるものと考えられる。Ssd1p, Mpt5pを含む液滴オルガネラ(Pボディ)の構築とCbk1p[RAM]によるその溶解という新たな分子機構について解析を進めるため、今後は試験管内アッセイ系の構築が急務と考えられる。
deltaRAM ssd1-d taf1deltaTAND三重変異株の致死的状態を再現し、遺伝子発現変化の詳細を解析する必要があると判断したため。次年度については、当初の計画通り、試験管内アッセイ系の構築を進める。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (1件)
PLoS Genetics
巻: - ページ: -
Genes & Genetic Systems
Nat Struct Mol Biol.
巻: 26 ページ: 1035-1043
10.1038/s41594-019-0321-z