植物が1度受けたストレスに対して2度目にはより強く効率的に抵抗する、いわゆる1度目のストレスを“記憶”する例が知られている。この植物の記憶メカニズムを明らかにすれば、高ストレス耐性植物作出のための新たな分子育種法の開発につながると考えられる。そこで、本研究では植物の記憶形成および消去の際に機能すると考えられる推定クロマチンリモデリング因子に着目し、その分子メカニズムの解明を目的として解析を進めた。 本研究課題では、初年度にトランスクリプトーム解析を実施し、2年目は、トランスクリプトーム解析により同定された記憶形成遺伝子群の中から推定クロマチンリモデリング因子が直接結合するゲノム領域を同定した。その際、解析を進めている推定クロマチンリモデリング因子は、当初から予想されたストレス応答遺伝子座のみならず非コードRNAを転写するゲノム領域も直接的なターゲットとすることがわかった。 本年度は、推定クロマチンリモデリング因子が直接ターゲットとするゲノム領域の転写調節がヌクレオソーム含有率の変化により引き起こされているのかどうかを検証するためにFormaldehyde-Assisted Isolation of Regulatory Elements (FAIRE) 法による解析を行った。その結果、推定クロマチンリモデリング因子の機能欠損変異体において、推定クロマチンリモデリング因子が直接するターゲットとするゲノム領域のヌクレオソーム含有率が、野生型のそれと比較して優位に異なると分かった。また、調査したヌクレオソーム含有率は、野生型植物体においてストレスの経験により変化することも確認された。以上の結果から、本研究で着目している推定クロマチンリモデリング因子が植物の記憶形成および消去の際に重要な機能を果たすことが強く示唆された。
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