研究課題/領域番号 |
18K06070
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
宇谷 公一 金沢医科大学, 医学部, 助教 (60583143)
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研究分担者 |
樋口 雅也 金沢医科大学, 医学部, 教授 (50334678)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脱ユビキチン化 / DNA損傷応答 |
研究実績の概要 |
以前、当研究室の樋口らは、脱ユビキチン化酵素であるUbiquitin Specific Protease 10 (USP10) が、ストレスによって誘導される活性酸素(ROS)の産生を抑制する制御分子であること、さらに、USP10 のノックアウト(KO)マウスは造血幹細胞(Hematopoietic Stem Cell: HSC)が維持されないことに起因する骨髄造血不全をともなう重度の貧血に陥ることを明らかにした。 HSC維持に関わるストレス応答として、小胞体ストレス応答、オートファジー、DNA 損傷応答(DNA damage response;DDR) などが知られているが、HSC のストレス応答時に、どのような蛋白質がUSP10 により脱ユビキチン化され、いかにしてHSC の維持に寄与しているか、その作用機序は不明である。
前年度の研究では、USP10-KO 細胞では①染色体不安定性を呈していること, ②DNA損傷修復の遷延化、③Homologous Recombination (HR) 経路の結果生じるSister chromatid Exchange(SCEs)効率の低下、④IRやDNA損傷誘導剤による感受性の増加、等を見出した。 そこで、本年度では、HR経路修復後にGFPをレポーターとして発現するDR-GFP細胞を樹立し、HR経路を再評価した。その結果USP10-KO細胞では、HR活性全体への影響は見られないが、リゾルベースを利用した経路が抑制されている可能性が示唆された。また、DNA-PKをノックダウンすることにより、SCEs効率が正常値に戻った。これらの結果は、USP10-KOではDNA-PKの撹乱を介してDDR異常に至ることを示唆していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度一年目には、①USP10-KO MEFで自発的DNA損傷が頻発していること、②CRISPR-Cas9 でUSP10 をノックアウトしたヒト癌細胞においても同様の結果が得られること、③DNA損傷誘導後の経過を観察することでUSP10-KO細胞はDNA損傷修復が遷延化すること、④USP10-KO 細胞は様々なDNA損傷誘導剤へ感受性を示すことを見出した。その分子機構を明らかにするため、研究計画の<USP10-KO細胞におけるDDR 関連蛋白質の解析>を実施した。その結果、USP10-KO細胞では①DNA-PK阻害剤存在下、もしくはNHEJ 経路修復を引き起こす薬剤では、gH2AX foci 形成増加、遷延化は観察されないこと、③HR 経路を評価するためにSCEs頻度を指標として、染色体間組み替え率を評価すると、SCEs の効率が有意に抑制されていることから、HR経路の異常が示唆された。
本年度には、HR経路を評価するため、DR-GFPレポーターアッセイを行った。しかし、HR活性効率にUSP10の影響は見られなかった。HR経路の最終段階において、SCEsを生じるリゾルベース経路、クロマチンをほどきSCEsを伴わないヘリカーゼ経路が知られている。そのため、USP10-KOでは後者の経路へ影響する可能性が示唆された。さらに、DNA-PKをノックダウンするとSCE頻度は正常化した。すなわち、USP10はDNA-PKを介してHR経路のHoliday junction解消の選択に関与することが示唆された。DNA-PKとUSP10の間に相互作用があることを見出したが、DNA-PKの量には影響が見られなかった。以上の結果から、USP10欠乏で生じるDDR経路の異常はDNA-PKの質的撹乱をもたらすことが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究一年目、二年目の計画により、USP10-KO細胞にみられるDDR 経路の異常の分子メカニズムの一端を担う分子としてDNA-PKを新規候補分子として見出した。DNA-PK の欠失は免疫不全マウス(Scid mouse)として広く知られているが、そのリン酸化部位の変異マウスはUSP10と極めて酷似したHSCの減少を伴う貧血を呈することが報告されている。USP10とDNA-PKは相互作用するが、DNA-PKの量的変化は認められないため、DNA-PKの翻訳後修飾について詳細に解析する必要がある。またDNA-PKによるリン酸化蛋白質について解析していく。またATMとDNA-PKはお互いにリン酸化することから、そのクロストークについても解析する。
最終年度では、DNA-PKが制御するHR経路のリゾルベース関連分子は限られているため、それを同定できると考えている。しかしNHEJ/HR経路選択性が変化するだけで、しかも、HR経路もBLMヘリカーゼ経路が生きているならば、DNA修復がなされず細胞死に至ることの説明ができない。この原因としてDNA-PKはNHEJの制御因子であるが、HR 経路への干渉が示されたため、それぞれの経路が競合阻害を起こしている可能性が考えられる。もう一つの可能性として、HR経路を利用したテロメア維持機構として知られるAlternative telomere lengthening (ALT)の異常も併発している可能性は少なくない。これらの可能性を精査しつつ、USP10とDNA-PKを繋げる脱ユビキチン化標的分子を同定しUSP10によるDDR制御メカニズムを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
標的分子絞り込みに時間を要しているため抗体購入を先延ばしすることになった。おおよそ予算内で収まる範囲まで絞り込めてきたので、当該年度に使用する。
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