免疫グロブリンM (IgM)は、二組の軽鎖と重鎖で形成されたIgM単量体が、ジスルフィド結合で架橋された五または六量体として細胞外に分泌される。これまでの 研究から、細胞の分泌経路において、小胞体で合成されたIgM単量体が小胞体シャペロンであるERp44によって捕獲され、糖タンパ ク質の運搬を担うERGIC-53上 でIgMの正確な会合体が形成されると考えられている。ERGIC-53は、小胞体とゴルジ体の中間区画であるERGICに局在する一回膜貫通タンパク質であり、糖鎖修飾 された様々な分泌タンパク質を小胞体からゴルジ体へと輸送させる役割を果たしている。全体構造は、糖鎖結合ドメイン (CRD)、ストークドメイン、膜貫通ヘ リックス(TM)およびERGIC局在モチーフで構成されており、ストークドメイン間で六量体を形成して機能すると考えられている。しかし、全長ERGIC-53の立体構 造は未決定であり、六量体としての分子機構は不明な点が残されている。またERp44との相互作用様式についても、十分には分かっていない。本研究は、全長 ERGIC-53の立体構造ならびにERp44やIgMとの複合体の構造解析によって、IgMの正確な会合体形成の分子基盤の解明を目指すものである。 今年度は、大量発現に成功した全長ERGIC-53について、精製条件の最適化とネガティブステインおよびクライオ電子顕微鏡によるサンプルのスクリーニング行った。またSEC-MALS/SAXS実験から、溶液状態の構造情報を得るに至り、カルシウムイオンに依存した構造変化が示唆される結果が得られた。
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