研究課題/領域番号 |
18K06077
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
深井 祥子 (藤間祥子) 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (40363535)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 構造生物 / 結晶構造解析 / ユビキチンリガーゼ |
研究実績の概要 |
本研究では、2型糖尿病治療薬開発に向け、肝糖新生酵素遺伝子の発現機構を構造生物学的アプローチからの解明を目的とする。特に、GCN5蛋白質のN末端ドメインが持つユビキチンリガーゼ(E3)活性に着目し、新規E3酵素の活性発揮機構の解明を第一の目的とし研究を進めている。 GCN5の最もよく知られた機能はC末端側に存在するヒストンアセチル基転移酵素活性であり、遺伝子の発現調節に関与する。一方、N末端のPCAF-ホモロジードメイン(PCAF-HD)は、高等生物にのみに存在し、GCN5では肝糖新生酵素遺伝子発現に向けたシグナル誘導に関与し、類似酵素PCAFではユビキチンE3活性を有することが報告されていた。本研究は、GCN5の生理学的役割の解明のみならず、ユビキチン化により制御される様々な生命現象の理解に大きく貢献できる。 本年度は、E2酵素を大腸菌で大量調製し、GCN5のPCAF-HDおよびPCAF-HD領域をさらに細かく分けた変異体を作成し試験管内でのユビキチン化酵素活性を評価するための実験系の確立を試みた。これは、研究計画の②『活性ドメイン、活性残基の同定』、⑥『E 2酵素, U Bの認識U B転移機構の立体構造からの解明』に該当する。 PCAF-HDは構造上3つの領域に分けられる。それぞれの領域を含む複数の蛋白質を調製したが、いずれも蛋白質が不安定で精製過程で切断や沈殿が生じたため、蛋白質調製は成功しなかった。GCN5、PCAF-HDを用いE2酵素からユビキチンを転移する能力が有るかを評価した。しかし、活性測定の途中で分解が生じ、評価できなかった。PCAF-HDを用いて、E2蛋白質との結合をゲルろ過クロマトグラフィーにより確認した。しかしながら、その結合は非常に弱く、より強く安定化した複合体を形成するにはユビキチンなどの他の因子を必要とする可能性も考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、GCN5が持つユビキチンリガーゼ活性の発揮機構、その生理学的意義を構造生物学的手法により解明することを目的としている。 既に、GCN5の類似蛋白質であるPCAFにおいてPCAF-HD領域がE3活性を持つことが報告されており、またPCAF-HDが既存のどのE3酵素とも異なる構造を持つことが予測されていた。実際に、我々が決定したPCAF-HD構造は、既存のどのE3酵素とも類似の構造を持たないことが確認され、新規フォールドを持つE3酵素であることが強く示唆された。 本研究では新規フォールドを持つE3酵素としてのGCN5の機能を明らかにするため6つの研究計画を立てた。初年度に、①『E2酵素の選別』、③『Znフィンガー構造の活性における役割』に当たる実験を行い、E2酵素依存的なE3活性を持つこと、我々が明らかにしたPCAF-HDの特徴的なZnドメイン構造はGCN5のE3活性発揮に必要であることを示した。次年度である本年度は、②『活性ドメイン、活性残基の同定』および⑥『E 2酵素, U Bの認識U B転移機構の立体構造からの解明』に向け、PCAF-HD部分のユビキチン化活性を評価するin vitro活性測定方法の確立に取り組んだ。 しかしながら、本年度着手したユビキチンリガーゼ活性を有する領域を決定する実験系の確立に成功しておらず、構造を決定しているPCAF-HDのみでE3活性を有するかどうかも実験から明らかに示すことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、6つの研究計画を3年かけて遂行することにしている。 初年度の実験は順調に進んだが次年度の実験計画が当初の予定より進捗していない。全計画の1/3程度が達成できたことになる。最終年度は、2年目の計画の問題点を検討しながら、in vitroでの活性評価系を確立し、GCN5のE3活性を発揮するために必要な領域の同定を行う。また、平行して結晶構造解析に向けた構造のスクリーニング実験も積極的に行う。
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