本研究では、ATPの加水分解エネルギーを利用して基質を能動輸送するATP-binding cassette(ABC)輸送体のうち、外膜チャネルと膜融合蛋白質と複合体を形成して基質の輸送を行う三者複合体形成型輸送体MacBについて、その基質輸送機構を解明することを目的としている。この輸送体MacBは、マクロライド系抗生物質やペプチド毒素、リポ多糖、プロトポルフィリン等を輸送する重要な研究対象である。これまでにMacB単独の結晶構造を明らかにしてきたが、その基質輸送機構の詳細な解明には、輸送基質とMacBの複合体の立体構造情報が不可欠である。2018年度に、MacBとの複合体の結晶化条件の探索実験に利用可能な、高濃度かつ高純度の基質の調製に成功した。また、MacBと基質の相互作用を確認する実験系の確立も行った。2019年度は、その基質、実験系を用いて、MacBとの相互作用の確認実験を行い、ある条件下で相互作用することを確認した。その基質-MacB複合体を用いて、結晶化条件の探索を行った。複数の条件下で結晶が得られ、より高い分解能で解析が行える回折データが得られるように、それぞれ結晶化条件、抗凍結処理の条件の最適化を行った。得られた結晶を用いてX線回折実験を行った。しかし、構造解析の結果、明瞭な基質の電子密度は観察されなかった。そこで、2020年度は、基質-MacB複合体の形成を促進するために、より高濃度の基質存在下で、結晶化条件の探索を行った。さらに、基質の種類を複数試行し、結晶化を行った。2021年度は、高濃度の基質存在下で得られた結晶について条件を最適化し、抗凍結処理条件の検討も行った。X線回折実験を行い、得られた回折データを解析した。
|