生体内では様々な要因で翻訳は異常停止し、合成途中の未成熟ペプチドがtRNAに結合したままのぺプチジルtRNAが停滞リボソーム内に産生される。現在までの研究により、産生されたぺプチジルtRNAが停滞リボソームから細胞質に放出される場合、ぺプチジルtRNAはぺプチジルtRNA加水分解酵素 (Peptidyl-tRNA hydrolase、以下Pth) の働きでペプチドとtRNAに分解されることがわかっている。一方、産生されたペプチジルtRNAが停滞リボソーム中に留る場合、ぺプチジルtRNAは停滞リボソーム中でペプチドとtRNAに分解されるが、この反応を担う因子は真核生物では未だ不明である。また一方で、我々は最近、Pthがユビキチン化タンパク質運搬因子と直接相互作用することを見い出している。本研究の目的は以下の通りである。 1) 停滞リボソーム中でぺプチジルtRNAを分解する因子を分子遺伝学的手法で探索する。 2) Pth-ユビキチン化タンパク質運搬因子の相互作用様式をX線結晶構造解析で明らかにする。 3) Pthとユビキチン化タンパク質運搬因子が共同でリボソーム中のぺプチジルtRNAの分解に働いている可能性を追究する。 研究成果であるが、1)については、様々な遺伝子破壊株を作製してその中で長鎖ぺプチジルtRNA を発現させる生育実験を行った。その結果、停滞リボソーム中のぺプチジルtRNA の分解因子として現在同定されているVms1だけでは生育が十分担保されないことを突き止めた。2)についてはほぼ構造解析が終了した。3)については、2)の構造解析の結果をもとに、ユビキチン化タンパク質運搬因子と相互作用しないPthを設計し、in vitro実験において実際に相互作用が無くなったことを確認するところまで終了した。
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