研究課題/領域番号 |
18K06084
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
有吉 眞理子 大阪大学, 生命機能研究科, 特任助教(常勤) (80437243)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 染色体分配 / セントロメア / キネトコア / 分子間相互作用 / X線結晶解析 |
研究実績の概要 |
細胞分裂に伴う染色体分配は、遺伝情報の継承と生物の恒常性を担う極めて重要な過程である。染色体の均等分配は、染色体上のセントロメア領域に形成されるキネトコアと呼ばれる多数のタンパク質からなる超分子構造体によって制御されている。細胞分裂期において、姉妹染色体は紡錘体微小管にとらえられて、分離され、娘細胞へと運ばれる。この際、染色体と紡錘体微小管を連結する役割を果たすのがセントロメア上に形成されるキネトコアである。本研究では、キネトコア分子構造体の可塑性と頑強性を支える仕組みを解明するため、生化学と構造生物学の手法を用いて、キネトコアにおける染色体と紡錘体微小管の連結の要となるCENP-T、CENP-Cタンパク質の機能解析を行なった。 キネトコアにはCENP-C/Mis12複合体もしくはCENP-Tタンパク質を介した 2つの染色体-紡錘体微小管連結経路が存在する。前者のCENP-C 経路を重視した機能解析が世界的には先行しているが、生体内においてこれら2つの経路が独立に機能しているのか、細胞内環境に応じて使い分ける制御機構があるのかなど、未だ不明である。今回、蛍光偏光解消法を用いた定量的な分子間相互作用解析を行った。細胞生物学的な解析結果と合わせて、細胞分裂期特異的なCdk1のリン酸化によって、CENP-TおよびCENP-CのNdc80複合体への結合が排他的に制御されていることを明らかにし、リン酸化を介したCENP-C経路とCENP-T経路の制御機構に関する新しい機能モデルを提唱した。さらに、正常な染色体分配に必須なCENP-Cの二量体形成領域の結晶構造を決定し、生化学的な実験結果と合わせて、この領域でさらに高次の自己会合状態を取りうることが明らかにした。この結果は、機能的なキネトコア形成におけるCENP-Cの未知の役割を示唆し、染色体分配の分子機構研究の新たな展開につながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CENP-TおよびCENP-C/Mis12複合体中のそれぞれのモチーフのみを用いたペプチドレベルでの一連の相互作用実験を完了し、細胞生物学的な実験結果とあわせて、学術論文として成果発表している。CENP-Tに関する研究の過程で、CENP-Cの役割についても新たな知見を得たので、正常な染色体分配に必須な領域の構造機能解析を行い、新しい構造知見を得ている。概ね研究は順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では以下の2つの研究項目に関して、タンパク質化学・構造生物学の観点から解析を行う。 ①CENP-T経路およびCENP-C経路におけるとNdc80複合体との結合制御 前年度でCENP-TとCENP-C/Mis12複合体内のNdc80複合体との結合モチーフに着目し、ペプチドレベルでの個々の相互作用解析を終えて、リン酸化を介したCENP-C経路とCENP-T経路の制御機構に関する新しい機能モデルを提唱した。今後、このモデルを構造生物学の立場からさらに検証し、その分子機構の全容を明らかにしていく。まだ、構造知見がないCENP-C/Mis12複合体とNdc80の結合領域の部分的な複合体構造の結晶化、結晶構造解析を行う。さらに、より全長タンパク質に近いCENP-Tフラグメントを用いて複数のモチーフによる相乗的なNdc80複合体との結合様式について生化学的な解析を進めていく。そのためのタンパク質試料調製法を改善し、相互作用解析に着手する。また、前年度のCENP-Cの構造解析の結果から明らかになったCENP-Cの自己会合能について、染色体分配における機能的な役割を明らかにするために変異体解析を行う予定である。 ② Ndc80複合体の紡錘体微小管会合におけるCENP-T結合のアロステリックな影響 これまでにCENP-Tとの結合によってNdc80複合体の立体構造および会合状態の変化を誘起する可能性を示唆するデータが得られている。この知見に基づき、CENP-Tに結合した状態のNdc80複合体タンパク質の構造解析を行う。結晶化のための試料調製から着手する。結晶が得られない場合には、X線小角散乱やクライオ電顕の手法を用いて構造知見を得ることも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H30年度では、測定に用いるタンパク質試料調製、結晶調製が想定していたよりも速やかに効率よく完了し、その後データ解析が中心となった。そのために必要な生化学試薬の購入費用等が計画よりも抑えられた。成果発表とX線回折データ収集のための旅費はほぼ計画通りに使用した。次年度に行うタンパク質精製のためのクロマトグラフィーシステムの消耗品やカラム、結晶化のための試薬、器具の補充がH30年度よりも必要になると見込まれるので、翌年度分の物品費とあわせて使用する計画である。
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