細胞分裂に伴う染色体分配は、セントロメアに形成されるキネトコアと呼ばれる多数のタンパク質からなる超分子構造体によって制御されている。キネトコアは、染色体と染色体移動装置である紡錘体微小管を細胞周期と同調して連結し、両者の状態変化を伝達するが、その実体は未だ不明な点が多い。本研究では、染色体と紡錘体微小管の連結に重要な役割をはたすCENP-Cタンパク質とCENP-Tタンパク質に着目し、主に生化学と構造生物学の手法を用いてキネトコア形成に関する構造基盤研究を行った。 キネトコアにはCENP-C/Mis12複合体もしくはCENP-Tタンパク質を介した 2つの染色体-紡錘体微小管連結経路が存在する。本研究では、これまでにCENP-Cとセントロメア特異的なCENP-Aヌクレオソームの 複合体の立体構造を明らかにした。この構造情報に基づき、CENP-Aヌクレオソームに直接結合するキネトコア因子であるCENP-CとCENP-Nのセントロメアへの結合様式を生化学および細胞生物学の手法を用いて検証した。その結果、CENP-Cのリン酸化によって、CENP-CとCENP-Nのセントロメアへの結合が競合的に制御されるというモデルが示唆された。また、CENP-C/Mis12複合体およびCENP-Tは、キネトコア構成因子の一つであるNDC80複合体との結合を介して、紡錘体微小管と染色体を連結する。これまでに、生化学および細胞生物学の手法を用いて、細胞周期依存的なリン酸化によって、これらのNDC80複合体の結合が排他的に制御されていることを明らかにしている。今回、CENP-C/Mis12複合体およびCENP-TのNDC80複合体結合インターフェースの結晶構造を決定し、その構造基盤を明らかにした。これらの結果は、細胞周期と連動して動的に制御されるキネトコア会合の一端を明らかにするものである。
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