細菌のべん毛モーターは、人工のモーターと非常によく似ており、固定子と回転子からなる回転モーターとして機能する超分子複合体である。陽イオンチャネルとして機能する固定子の内部に陽イオンが流れると、固定子と回転子が相互作用し、その結果回転力が発生すると考えられている。この回転力を生み出す際に、陽イオンの流れに共役して固定子のダイナミックな構造変化が起こることが推察されているが、固定子の立体構造が明らかにされていないためその詳細は不明である。したがって、べん毛モーターの回転メカニズムを解明するためには、固定子の高分解能立体構造およびその動的構造変化を解析することが必要不可欠である。本研究では、クライオ電子顕微鏡および高速原子間力顕微鏡を用いて、単離精製した固定子複合体の立体構造およびその動的構造変化を高分解能で明らかにすることを目的とする。 固定子として機能する膜タンパク質MotPS複合体は界面活性剤存在下で、単分散した状態で精製することに成功した。そこで、そのサンプルを用いてクライオ電子顕微鏡観察用の氷包埋試料を作製し観察したところ、単分散していたサンプルが大きな凝集体を作った。これは、氷包埋時の物理的影響によるものと考えられた。そこで、氷包埋時の条件とともにグリッドの化学修飾等の検討を行った。その結果、以前よりも多くの単分散した粒子を観察することができた。現在、そのデータを用いて解析中である。一方、同じ精製サンプルを高速原子間力顕微鏡でも観察を行った。MotPS複合体のマイカ基板上における配向を制御するため、ヒスチジンタグを利用した。しかし、MotPS複合体の膜貫通領域がマイカ表面と非常に強い相互作用を有するためか、様々な方向を向いて観察され、配向の制御には至っていない。そこで、精製時の界面活性剤を変更し、マイカとの相互作用が低下する条件を検討中である。
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