研究課題
本研究課題では、tRNA分子の高次構造に立脚した研究を中心に進め、化学修飾によるtRNA耐熱化機構を分子レベルで解明することを目的とした。本年度は、超好熱性アーキアThermococcous kodakarensis (Tko)のtRNATrpにおける化学修飾を逆相クロマトグラフィおよび質量分析により、完全に同定することができた。また、Tko tRNATrpの67番目のm2G (m2G67) 修飾形成は、tRNAメチル化酵素Trm14によって起こると予想し、候補遺伝子trm14を欠損させた。現在、trm14遺伝子破壊株から、固相化DNAプローブ法により精製したtRNATrpを用いて、逆相クロマトグラフィおよび質量分析を行なっている。また、trm14遺伝子破壊株の生育曲線を測定したところ、野生株とほぼ同じであったため、trm14遺伝子は、Tkoの高温環境下の生育に重要でないことが分かった。一方、Tko tRNATrpの10番目のm2G/m22G (m2G10/m22G10) 修飾の責任酵素はtRNAメチル化酵素Trm11であり、trm11遺伝子破壊株はTkoの高温環境下の生育に必須であることが分かっていた。今回、さらに様々なアプローチにより研究を進めたところ、trm11遺伝子破壊株におけるtRNATrpの存在量、他の種類のtRNAの存在量も変化がなく、Trm11酵素量も変動がなかった。これらの結果から、おそらく、m2G10/m22G10修飾が欠損したtRNATrpは、アミノアシル化、あるいはリボソーム上におけるコドン-アンチコドン対合が高温環境下で正確に働かないことが考えられた。tRNAのG34の2'-O-リボースのメチル化を触媒するtRNAメチル化酵素Trm7-Trm734の結晶構造を決定し、酵母Trm7-Trm734のtRNA認識を推定することができた。
2: おおむね順調に進展している
超好熱性アーキアThermococcous kodakarensis (Tko)のtRNATrpにおける化学修飾を完全に同定することができた。また、Tko trm11遺伝子がなぜTkoの高温生育に重要かを推測することができた。現在、これらの研究成果をまとめた論文を国際的な学術雑誌に投稿準備中である。また、アーキアと真核生物のtRNAメチル化酵素の基質認識機構を比較することで、両者のtRNAメチル化酵素の作用原理に共通性があるかどうか検証することができる。そこで、酵母Trm7-Trm734の構造機能解析から、Trm7-Trm734の基質認識機構を推定することができた。tRNAの34番目の2'-O-リボースをメチル化する酵素は、基質認識において、アーキアと真核生物に共通する原理がないことが判明した。現在、その研究成果を論文として、国際的な学術雑誌に投稿している。また、前駆体tRNAからイントロンを除去し、耐熱化tRNAに導くRNAスプライシングエンドヌクレアーゼの総説を執筆した。
今後は、Thermococcous kodakarensis (Tko)のtRNATrpの結晶構造を決定し、分子レベルによるtRNAの耐熱化機構を解明していく予定である。そのためにも、Tko tRNATrpを大量調製し、結晶化を行い、作成した結晶を放射光施設SPring-8に持ち込み、結晶のX線回折データを収集する。おそらく、既知のtRNA分子構造を用いて、分子置換法により、Tko tRNATrpの位相を決定することができるはずである。また、trm11遺伝子破壊株からもtRNATrpも大量調製し、結晶構造を決定する。野生株とtrm11欠損株のtRNATrpの結晶構造を比較することで、耐熱性の違いの原因が明らかになるかもしれない。場合によっては、NMRを利用して、動的な耐熱化機構についても検証する予定である。一方で、Trm14がtRNATrpの責任酵素であるかどうか調べるために、レコンビナントTrm14、tRNATrp転写産物、S-アデノシルメチオニンを反応させて、実際にTko tRNATrpのG67をメチル化するかを確認する。さらに、tRNATrpの化学修飾に関わる未同定の酵素遺伝子も遺伝学解析によって同定していく。
今年度は、tRNAの結晶化に割く労力と時間があまりなかったため、予想以上に物品費の支出がなく、逆に旅費の経費がかさんだ。両者の支出を差し引きしても、物品費の支出が少なかった。次年度にtRNAの結晶化を集中的に行なっていくため、繰越し予算は、高価な結晶化試薬等の購入に当てる予定である。
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Frontiers in Genetics
巻: 10 ページ: 1-7
https://doi.org/10.3389/fgene.2019.00103