研究課題
本年度は、超好熱性アーキアThermococcous kodakarensis (Tko)由来tRNATrpのm2G67修飾形成に関わるtrm14酵素遺伝子を同定した。また、Tko tRNATrpの15位に存在する修飾ヌクレオシド(アーケオシン)の生合成機構を解明した。アーケオシン生合成機構は、3つの酵素(ArcTGT、ArcS、RaSEA)が必要であり、とりわけ、ArcS-RaSEAは複合体を形成し、複合体はリジンとS-アデノシル-L-メチオニン(SAM)を用いることが分かった。その酵素反応の際に、C-N結合を切断するラジカルSAM反応は、これまで発見されておらず、生命が利用可能な化学反応に新知見をもたらした。一方、酵母tRNAPheのG34の2'-O-リボースのメチル化を触媒するtRNAメチル化酵素Trm7-Trm734の結晶構造を決定した。その結果、Trm7-Trm734の基質認識にはtRNAPheのD-arm構造が必須であり、アンチコドンループ上のCm32とm1G37の修飾ヌクレオシドがメチル化反応に重要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
超好熱性アーキアThermococcous kodakarensis (Tko)由来tRNATrpのm2G67修飾形成に関わるtrm14酵素遺伝子を同定することができた。この実験結果を加えた今までの研究成果を学術雑誌に報告し、Tko tRNATrpの修飾ヌクレオシドによる耐熱化機構についても考察した。また、15位のアーケオシンは、Tkoの高温環境下の生育に必須であり、数十年謎であったアーケオシン生合成機構を世界で初めて解明したことは、tRNAの研究領域だけでなく、その新奇な酵素反応は酵素化学の研究者にも多大なインパクト与えることになった。一方、酵母Trm7-Trm734メチル化酵素の基質認識機構をそのX線結晶構造をもとに推定し、その研究成果を国際的な学術雑誌に報告した。Trm7-Trm734の相互作用は、どのタイプのtRNAメチル化酵素にも見られないユニークなものであった。
今後は、高純度のTko tRNATrpを大量に調製して結晶化するために、既存の大量調製法を最適化する予定である。Tko tRNATrpを大量に調製後、結晶化を行い、作成した結晶を放射光施設SPring-8に持ち込み、結晶のX線回折データを収集する。収集したX線回折データと酵母tRNAPheの分子構造をもとに、Tko tRNATrpの分子構造を決定する。Tko tRNATrpの構造情報から、tRNA耐熱化機構を推測し、場合によってはNMRを利用して、動的な耐熱化機構についても検証する。
当初予定していたtRNAの結晶化には間に合わず、高価な結晶化試薬の購入に至らなかった。そのため、物品費用の支出が少なかった。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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