研究課題/領域番号 |
18K06089
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
真柳 浩太 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (50418571)
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研究分担者 |
石野 良純 九州大学, 農学研究院, 教授 (30346837)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クライオ電子顕微鏡 / DNA複製 / 立体構造解析 / 超分子複合体 / 生物物理 |
研究実績の概要 |
昨年度に引続きPolD-PCNA-DNA複合体の構造解析を中心に行った。分解能が向上したことにより、結晶構造中には含まれていなかったPolDのDP2サブユニットのC末領域の原子モデル構築が可能となった。また、この複合体の2つの構造、すなわちA型とB型を比較することで、DNAがPolDに対して45度程角度を変え大きくスイングすることが分かった。この変化により、A型ではポリメラーゼ活性部位に配置されていたDNA末端が、B型では活性部位より引き抜かれる。一方B型では2重鎖DNAが5塩基程巻き戻って単鎖DNAとなっており、3'末端がエキソヌクレアーゼ活性部位に到達できることがわかった。 この他、既知のPIPボックスモチーフ以外の新規に見つかったPolD-PCNA間の結合を精査したところ、PCNA側ではグルタミン酸E171が結合に寄与していた。このグルタミン酸E171は、我々が以前解析したPolB-PCNA-DNA複合体中でモード切り替えスイッチとして提唱したものである。PolBの場合同様、PCNAの3つのE171とPolD側の塩基性残基の結合の切り替えによって複製モードと構成モードの変換の制御が行われるというモデルを提唱した。更に計算機によるモデリングによって、FEN等の他の複製因子がPCNA上でPolDと共存可能であり、特にB型においては、DNAとの相互作用も可能であることが分かった。更にPolD-Primase解析に着手し、ゲルろ過によって単一ピーク精製した。急速凍結した複合体サンプルを電子直接検出カメラを装備したクライオ電顕を用いて解析した結果、昨年報告したPolD単独の構造に加えて、Primaseに相当する余剰の密度を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FEN-Lig-PCNA-DNAの解析においては、異なる複製因子間における基質DNAの受け渡しの様子を初めて捉えることに成功した。この構造とFEN-PCNA-DNAの構造解析及び、これらの構造をもとに提唱した複製フォークにおける複製因子の切り替え機構のモデルを記述した論文が掲載された。PolDに関しては全長構造の電子顕微鏡で解析した。そのけっかサブユニット組成及び、各サブユニットの相対的配置を決定し誌上発表することができた。PolD-PCNA-DNA複合体については、ゲルろ過によって複合体を精製、凍結条件等の最適化により、クライオ電顕によって立体構造解析を行った。その結果、興味深い事に同一溶液中に2つの構造が混在していることが明らかになった。さらに分解能を向上させることにより、PolDの2つのサブユニットのDP1及びDP2のこれまで結晶構造では明らかになっていなかった領域についても原子モデルを構築することができた。特に柔軟なループ領域で構成されるPCNAと相互作用する領域の可視化によって、キーとなるアミノ酸残基を特定、これらの残基による岡崎ソームの機能切り替えの機構のモデルを提唱することに成功し、プロジェクトは概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
PolD-PCNA-DNAの構造については、A型、B型の両構造を比較し、反応機構における両構造の役割を考察し、論文にまとめ誌上発表を行う。PolDと相互作用をするPrimaseとの複合体等、新規の複合体を再構成、ゲルろ過等による精製を行い、クライオ電子顕微鏡にて観察を行う。クライオ電顕像の2次元解析、初期立体構造解析を行うことでサンプル調製、凍結条件の最適化を行い、高分解能の見込めるサンプルについて電子直接検出カメラを装備したクライオ電顕にてデータ収集を行う。得られた立体構造を元に原子モデルを構築して因子間の相互作用部位を特定する。得られた結果から反応制御機構を考察し、変異体実験等による確認を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、解析用データの収集を筑波の高エネルギー研究所のクライオ電顕を用いて行う予定であった。しかし、筑波に比べてより近距離の播磨の理化学研究所に同等の装置が設置され、利用が可能になったため、旅費及び装置使用料が削減できた。 また研究分担者が当初予定していたほど使用しなかった。当分担者は現在新規サンプルの調製を既に開始しており、差額相当の研究費を使用する予定である。
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