研究課題/領域番号 |
18K06090
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石橋 洋平 九州大学, 農学研究院, 助教 (90572868)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スフィンゴ脂質 / グリオキシル酸 / エタノールアミン / ラビリンチュラ類 |
研究実績の概要 |
複合スフィンゴ脂質はスフィンゴリン脂質とスフィンゴ糖脂質の2つに大別される。そんな教科書的常識を覆す、第3のカテゴリーを創設する全く新しいスフィンゴ脂質が見つかった。エタノールアミンとグリオキシル酸がセラミドに結合した、セラミドグリオキシルエタノールアミン(CGE)の存在が明らかとなったのだ。本研究ではこの特殊なスフィンゴ脂質CGEがどのように合成され、分解されるのか、どのような機能をもつのか、そしてどのような生物がCGEをもつのか、といった謎を解明することを目指している。CGEは海洋微生物ラビリンチュラ類から発見された脂質である。CGEは頭部構造だけでなく、セラミド構造も哺乳類などとは大きく異なっている。CGE合成酵素の基質となるセラミドの構造が、酵素活性にどのような影響を及ぼすのかは不明である。CGE合成酵素を同定する上で、その性質を明らかにすることは重要となる。そこでラビリンチュラ類において、セラミド構造を変換する酵素遺伝子を欠損させることで、哺乳類と同様のセラミド構造をもつ変異株を作出し、CGE合成能に及ぼす影響を評価した。その結果、セラミド構造が異なってもCGEは変わらず合成されること、また野生株よりもCGE量が大幅に増加することを見出した。原因は定かではないが、偶然にもCGE合成能が向上する変異株を取得することが出来た。この株においては、CGEの頭部構造を形作る未知の前駆物質の量や、CGE合成酵素の発現量が高まっている可能性が考えられる。今後はこの変異株を活用し、CGE合成経路の解明を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までに実施した研究により、CGEのin vitro合成活性測定系を構築したことを報告した。しかしながら、その活性は微弱かつ安定性にかけるものであった。海洋微生物ラビリンチュラ類から見いだされたCGEには水酸基の数が2つ、2重結合の数が3つ、メチル分岐が1つ存在する(d18:3+Me)。一方、in vitro合成活性測定で用いている蛍光セラミドは水酸基が2つ、2重結合が1つのd18:1である。このようなセラミド構造の違いに対する基質特異性がCGE合成活性に影響を及ぼしている可能性がある。そこで今年度はセラミド構造とCGE合成活性との相関を明らかにすることを目的とし、ラビリンチュラ類のセラミド修飾酵素遺伝子の同定と機能解析を行った。ラビリンチュラ類のセラミド構造d18:3+Meを形成するためには、まずΔ8デサチュラーゼの働きによりd18:1がd18:2に変換される必要がある。ラビリンチュラ類Aurantiochytrium limacinumのドラフトゲノムよりΔ8デサチュラーゼ遺伝子を探索し、その候補遺伝子の欠損株を作製した。得られた株の脂質を抽出し、質量分析計を用いてCGEおよびセラミドの構造を調べた結果、本来は主要な分子種であるd18:3+Meが消失し、d18:1に置き換わっていることが分かった。この結果より、セラミド構造はCGE合成活性に影響を及ぼさないことが示された。また予想外の結果として、Δ8デサチュラーゼ欠損株ではセラミドおよびCGE量が大幅に増加していることが分かった。この株ではCGE合成に関与する酵素遺伝子や前駆物質の量が増加している可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
CGE量が大幅に増加するΔ8デサチュラーゼ欠損株は、CGE合成に関わる前駆物質や合成酵素遺伝子の発現量が高まる可能性がある。野生株とΔ8デサチュラーゼ欠損株のトランスクリプトーム解析を行い、Δ8デサチュラーゼ欠損株で発現量が上昇する遺伝子を探索し、その欠損株および過剰発現株を作出し、CGE量に及ぼす影響からCGE合成経路との関係性を評価する。これまでの研究成果として、安定同位体エタノールアミンを使うことで、非常に少ないながらもCGEが標識されることを見出している。CGEの前駆物質の段階でエタノールアミンが取り込まれている可能性がある。野生株およびΔ8デサチュラーゼ欠損株をもちいて安定同位体エタノールアミン取り込み・代謝追跡実験を行い、CGE合成量が高いΔ8デサチュラーゼ欠損株において増加する安定同位体標識化合物を探索することでCGE前駆物質の同定を試みる。CGEのセラミド構造はΔ8デサチュラーゼだけでなく、Δ10デサチュラーゼや9メチルトランスフェラーゼ、脂肪酸Δ3デサチュラーゼ、脂肪酸2ヒドロキシラーゼなどの酵素群が作用することで形成される。Δ8デサチュラーゼ以外のセラミド修飾酵素遺伝子を同定し、その欠損がCGE合成量に及ぼす影響を評価することで、CGEの合成に関わる経路、化合物の絞り込みを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスによる感染症拡大をうけ、数か月間の実験中断を余儀なくされたことから、その期間における物品購入が出来なかった為。また、対面での学会が中止されたことで、その旅費を使うことがなかった為。次年度使用額は、中断期間を埋め合わせるための実験に利用する。
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