特定のスプライシング制御蛋白質が,アポトーシス誘導に関わる遺伝子の選択的スプライシングを制御することで,がん化の抑制に寄与すると考えられている。しかし,実際に,この蛋白質が選択的スプライシングを制御する遺伝子の数や種類,標的配列とその認識機構は未知である。そこで,本研究では,まずは立体構造解析によって,この蛋白質によるスプライシング制御メカニズムを明らかにすることを目的とする。 この蛋白質にはN末端側にRNA結合ドメインが3つあり,この部分が協動的にRNA結合を担っていると考えられる。そこで,この部分の蛋白質(以下トリプルドメイン)と標的配列を含むRNA断片との共結晶の作製を試みている。今年度までに,トリプルドメインの調製に関しては,無細胞蛋白質合成系に特定の界面活性剤を添加することで,安定した収量を得ることに成功した。しかし,この方法で調製したトリプルドメインに標的配列を含むRNA断片を混合し,384条件下で結晶化スクリーニングを行ったが,再現良く結晶が得られる条件は見つからなかった。一般的に,構造的に柔軟な部位があると結晶化が難しい。実際,トリプルドメインのドメインの間には十数個のアミノ酸残基が存在している。そこで最終年度は,ドメイン間のアミノ酸残基の欠失が可能かどうか,つまり,この部位がRNA結合を担っているかどうかを明らかにするため,トリプルドメインと標的配列を含むRNA断片との相互作用を定量的に検出する系をバイオレイヤー干渉法で構築することとした。ストレプトアビジンバイオセンサーにビオチン修飾したRNA断片を固定し,これにトリプルドメインを作用させたところ,再現良く相互作用を検出することができた。今後は,この実験系を用いて,ドメイン間のアミノ酸残基を欠失させたトリプルドメインでも結合能に変化がないかを確認し,結晶化に適したコンストラクトを作製していく予定である。
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