研究実績の概要 |
本研究では、細菌の細胞分裂タンパク質複合体Divisomeの中心タンパク質FtsZが生み出す膜分裂の駆動力に着目し、X線構造解析や高速AFMなどを用いた(1)FtsZのマルチプローブ解析を実施した。また、FtsZは有望な抗菌薬の標的である。そのため(2)抗菌薬の開発基盤を構築するための実験を行った。以下に詳細を述べる。 (1)については、高速AFMでFtsZがフィラメント構造を形成する様子を初めて観察できた(Int. J. Mol. Sci. 22, 1697, 2021)。ここでは、C末端のフレキシブル領域を切断したFtsZ(FtsZt)フィラメントの成長および解離速度の測定によって、成長および解離条件におけるFtsZtフィラメントの正味の成長および解離を確認できた。 また、全長FtsZ(FtsZf)およびFtsZtフィラメントの曲率を分析・比較することによって、FtsZfフィラメントよりもFtsZtフィラメントが直線フィラメントを形成することが分かった。 (2)については、これまで黄色ブドウ球菌FtsZ(SaFtsZ)阻害剤を開発してきたが、薬剤耐性菌の増加が問題誌されている大腸菌と肺炎桿菌については阻害剤最適化事例もないため、大腸菌FtsZ(EcFtsZ)と肺炎桿菌FtsZ(KpFtsZ)のX線構造解析を実施した(Acta Cryst. F76, 86-93, 2020)。さらに、研究代表者らが開発した蛍光プローブを用いて熱力学的パラメータを決定できた。阻害剤の解離定数kDだけでなく、エントロピー変化ΔS[cal/mol・K]についても、SaFtsZ, EcFtsZ, KpFtsZの順でそれぞれ-7.8、+11.2, +10.5となり、正負の逆転が見られた。つまり、SaFtsZ, EcFtsZ, KpFtsZの阻害剤結合ポケットの大きさ、形、親水・疎水性などの性質について明確な差が見て取れた。
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