研究課題
エピジェネティクス制御の一つには、DNAメチル化修飾がある。一旦、細胞特異的なDNAメチル化模様がゲノム上に形成されると、安定に維持されようとする。その維持酵素として、Dnmt1がある。これが機能するためには、他のエピジェネティクス制御とも関連する必要があることが分かっている。その代表として、ヒストンの化学修飾がある。ヒストンの化学修飾には、Dnmt1が直接認識するヒストンのモノユビキチン化に加えて、間接的に関わるメチル化修飾(H3K9me3)がある。間接的であるというのは、H3K9me3を認識する分子としてHP1があるが、それがDnmt1と結合することが知られているからである。本年度は、HP1分子をより深く調べる目的で、HP1分子に電子スピンを導入して、その運動性について検討した(Suetake et al., BBRC 2021)。その結果、ヒトHP1は、酵母と違う制御があることが分かった。HP1は、H3K9me3を認識するドメインとしてクロモドメイン(CD)があるが、酵母ではH3K9me3が存在しない場合、CDが2量体を形成し、H3K9me3が存在することよりCDーCD相互作用がなくなることが知られている。本研究では、ヒトではH3K9me3が存在しなくても、CDは2量体を形成せず、H3K9me3を常に探しているような状態であることが分かった。一方、HP1には、もう一つのドメインとして、クロモシャドウドメイン(CSD)がある。CSDを介して、HP1は、2量体形成をすることが知られており、CSDの結晶構造などが明らかとなっている。しかし、分子全体で、その2量体構造が揺らいでいるか、安定なのかが明らかでないため、CSDに電子スピンを導入し、CSDの運動性ならびに、CSD間の距離を測定した。その結果、全長のHP1においても、CSDは結晶構造とほぼ変わらない配置を安定にしていることが分かった。このように、電子スピンを用いることで、HP1の新たな物性が明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
DNAメチル化酵素について研究を進めようとしているが、現在のところ、昆虫細胞を使って発現する設備が整っていない。それが整うまで、DNAメチル化酵素の制御にかかわる因子(HP1)の分子について調べることにしている。現在、論文も出すことができ、順調に研究が進んでいる。
HP1分子は、研究の歴史が長いので、多くのことが明らかにされていると考えていたが、研究を進めてみると、予想外に新たな性質を見出すことができた。今後、さら詳細に研究をすすめ、新たな物性を明らかにしようと考えている。それら結果をもとにして、DNAメチル化の制御を新視点で理解したい。
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PLoS One
巻: 17 ページ: e0262277
10.1371/journal.pone.0262277
Biochem Biophys Res Comm.
巻: 567 ページ: 42-48
10.1016/j.bbrc.2021.06.010