研究課題
今年度は、研究実施計画に記載した中で、全長CbnR-DNA複合体の結晶化条件の最適化及び結晶工学的処理による結晶の改善とX線回折データ収集に集中して研究を進めた。研究開始時には、6.9 A分解能の全長CbnR-DNA複合体結晶が得られていたが、構造を決定するためには結晶の性質を大きく改善する必要があったため、結晶化条件および結晶の凍結条件の最適化により良質な結晶を得ることを試みた。結晶化溶液の沈殿剤濃度及び結晶化のドロップレットサイズ等のパラメータの最適化により当初は0.1mm程度の大きさであった結晶を0.3mm程度の柱状結晶へと成長させることができた。また、クライオプロテクタントの最適化の結果、トレハロースおよびエリスリトールを用いた場合にPhoton FactoryのBL-1Aで3.6 A分解能の回折が生じる結晶が得られた。xdsとxscaleを用いたデータ処理の結果、結晶の空間群 P6(1)22, 格子定数a=b=109, c=606Aであり、最外殻のR-mergeが0.5以下となるところでデータをカットすると4.2 A分解能のデータが得られた。また複数データをマージし、redundancyを高めた結果、3.5 A分解能のデータとすることができたため、このデータを用いてMR-native SAD法による構造決定を試みた。分子置換法で部分構造を決定するために用いる初期モデルとしては、我々のグループで結晶構造を決定したCbnRのDNA結合ドメイン(CbnR_DBD)と26塩基対のRBSからなるCbnR_DBD-RBS複合体を用いた。MR-native SAD法による位相決定の結果、CbnR四量体に結合するDNAの電子密度が確認でき、Phenix_refineを用いた結晶学的精密化によりfreeR/R=0.30/0.26まで精密化できている。
2: おおむね順調に進展している
全長CbnR-DNA複合体の結晶構造解析については、まだ構造精密化が完了していないものの予定通りに進捗していると言える。結晶化条件およびクライオプロテクタントの最適化により、全長CbnR-DNA複合体結晶の性質を当初の6.9 オングストローム分解能から3.5オングストローム分解能へと改善することができた。MR-native SAD法による位相決定により、CbnRに結合する56塩基対のDNA全体(RBS: recognition binding siteとABS: activation binding site)の電子密度が確認できているもののDNAのモデル構築に苦労している状況である。具体的にはDNAのうちRBSについては既に構造を決定しているCbnR_DBD-RBSをベースにしてモデル構築を進めることができているが、ABSについては電子密度が曖昧でありDNAを正確に置くことができていない。そのため、CbnR_DBD-ABS複合体の結晶構造があれば、ABS領域のモデル構築が行いやすくなると考え、結晶化スクリーニングを行った。その結果、いくつかの条件で結晶が得られたが、回折データ収集及び構造解析の結果、CbnR_DBD単体の結晶であることが確認できている。引き続き、結晶化スクリーニングを続けている状況である。全長CbnR-DNA-誘導物質複合体の結晶構造解析については、現在までに得られている全長CbnR-DNA複合体結晶へ誘導物質をソーキングする方法では、大きな構造変化が生じる場合に適応できないため難しいと考えている。
全長CbnR-DNA複合体の結晶構造解析については、現在までに得られているデータを再処理し分解能を高めること、また、部分構造としてCbnR_DBD-ABS複合体を用いることにより、確実に達成できると考えている。全長CbnR-DNA-誘導物質複合体については、既に得られている全長CbnR-DNA複合体結晶へのソーキング法ではなく、共結晶化を進めていく。確実に三者複合体結晶を得るためには、まず、三者複合体が安定に形成される条件を探索する必要がある。結晶が得られる条件が全長CbnR-DNAとは全く異なる可能性も高いため、研究代表者が所属する高エネ機構・構造生物学研究センターの結晶化ロボットを用いて約1000種類の条件についてスクリーニングを行う予定である。結晶化の成功率を高めるために、全長CbnR-DNA複合体結晶をシード結晶として用いたmicro-seeding法による初期スクリーニングも試みる予定である。得られた結晶には全てX線を当て、全長CbnR結晶及び全長CbnR-DNA複合体結晶とは異なる格子定数のものに絞って、結晶化条件の最適化と解析を進めることで三者複合体結晶を見落とさないように注意する。結晶の性質が悪い場合には、嫌気条件下での結晶化や結晶工学的処理による結晶の改善を試みる。さらに、他の手法(例えば、CryoEMを用いた解析など)も組み合わせて研究を進めることで効率的に研究を進めることができると考えている。
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