研究課題
本年度は、全長CbnR-DNA複合体結晶から収集した回折データの処理を再検討するところから開始した。全長CbnR-DNA複合体結晶は0.3mm程度の長さの柱状結晶であったために、データ収集をヘリカルモードで行なっていたが、使用するデータ(結晶)の範囲により、データの統計値が大きく変化することが明らかになったため、良い範囲だけを抜き出して処理を行うことを試みた。現在、4つの結晶から得られたデータについて良い部分のみをマージし、最外殻のRpimが1以下となる3.4オングストローム分解能でカットしたデータを用いて構造精密化を進めている。複合体はCbnR四量体(1176残基)と56塩基対の二重鎖DNAから構成され、結晶の格子定数がa=b=109, c=606オングストロームと非常に大きいため、これ以上結晶の性質を高めることは難しいと判断し、現在までに収集したデータからできるだけ統計値が良いデータ(構造精密化でfreeRが下がるデータ)を用意し構造精密化を進めることにした。現在までにABSを除くモデル構築が完了しており、3.4オングストローム分解能でfreeR/R=0.29/0.24まで構造精密化が進んでいる。今回複合体の結晶化に用いたDNAはRecognition Binding Site (RBS)とActivation Binding Site (ABS)から構成されるが、RBSと比較してABSとの親和性が一桁のレベルで弱いことが我々のビアコアを用いた解析からも明らかになっており、結晶構造精密化を進めてもABSの電子密度が非常に弱く不明瞭であることと矛盾がないことが示された。誘導物質結合型の構造はまだ解明できていないものの、ビアコアやITCを用いた生化学解析により、誘導物質の添加によりCbnRとDNA(RBS-ABS)との親和性が高くなることを示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
全長CbnR-DNA(RBS-ABS)複合体の結晶構造解析については、概ね予定通りに進捗していると言える。ABS部分の電子密度が不明瞭であったため、モデル構築のガイドとすることを目的としてCbnRのDNA結合ドメイン(CbnR_DBD)とABSとの結晶化スクリーニングを約1000種類の条件について試みたが、ABS複合体の結晶は得ることができなかった。これは、下記でも説明するようにCbnR_DBDとABSとの親和性が低いことを反映していると考えている。誘導物質であるムコン酸を加えた時に生じる構造変化の解析については、現在は結晶のパッキングの制約がない条件で行った方が良いと考えている。そのため、全長CbnR-DNA複合体の構造が誘導物質の結合に伴い、どのように変化するかを溶液状態で明らかにするために、溶液散乱実験も試みた。既に我々が決定した全長CbnR四量体及び全長CbnR-DNA複合体の結晶構造と溶液散乱実験とを合わせて誘導物質の結合に伴って生じる構造変化について考察することを目的として溶液散乱実験を行ったが、解析できるようなデータは得られなかった。その理由は、精製した全長CbnRが非常に不安定であり、4度で一晩保存するとビームタイムまでに分解が生じてしまうことが原因であった。ビアコアやITCを用いた相互作用解析は順調に進行している。ビアコアによる解析では、CbnR_DBD-RBSの親和性がCbnR_DBD-ABSよりも一桁のレベルで高いことが明らかになっており、全長CbnR-DNA(RBS-ABS)複合体の結晶構造解析の結果と矛盾しないことが明らかになった。また、誘導物質を加えた場合に、CbnRとDNA(RBS-ABS)との親和性が高くなることも示された。
全長CbnR-DNA複合体の結晶学的精密化については、数ヶ月中には完了できると考えている。DNAのモデル構築については、電子密度が不明瞭な部分(特にABSの領域)については無理にモデルを構築せずに構造精密化を完了させる方針である。また、ビアコアやITCを用いた相互作用解析については論文化に向けてデータの解析を進め、必要に応じて追加データを取得する予定である。誘導物質の結合に伴う構造変化に関しては、X線結晶構造解析だけではなく溶液散乱実験やCryoEMを用いた解析を行うことも検討したいが、まずは精製サンプルの分解を抑制するための条件検討が必要であると考えている。さらに連携研究者と相談して、得られたCbnR-DNA(RBS-ABS)複合体の結晶構造に基づき、変異体の作製やレポーターアッセイなどの生化学解析を進めていきたい。最終的には、全長CbnR-DNA複合体の結晶構造を中心に論文化する予定である。また、国内外の学会で成果を発表することで関連する分野の研究者と情報交換を行い、今後の研究の展開についても考えたい。
研究補助員を雇用するために人件費を計上していたが、適任者が見つからなかったため。引き続き研究補助員の雇用は検討しているため、次年度に持ち越した分については人件費として利用する、もしくは、適任者が見つからない場合には物品費として利用する予定である。
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日本結晶学会誌
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