細菌の転写調節因子の最大のグループの一つであるLysRタイプ転写因子(LTTR)の転写活性化の分子機構を構造情報に基づいて明らかにするために、芳香属塩素化合物分解菌の転写調節因子CbnRを研究対象として研究を進めてきた。全長CbnR-DNA複合体はCbnR四量体(294残基x 4=1176残基)とプロモーターDNA(RBS-ABSからなる55塩基対のDNA)から構成される大きな分子であり、結晶の格子定数は長軸方向で600 Aもある。そのため、構造決定のためにはいくつかの工夫を要した。まず、全長CbnR-DNA複合体の結晶の性質を改善するためにクライオ条件の最適化を行い、6.9Aから3.6 A分解能まで結晶の性質を改善した。X線回折データの収集は、タンパク質分子に含まれるSulfur(S)やDNAに含まれるPhosphate(P)の異常分散効果を測定するために低エネルギーX線(波長=1.9 A)を用いて行った。初期位相の決定は全長CbnRの部分構造を用いた分子置換法により行い、MR-native SAD法による電子密度図を用いてモデルの構築を進めた。また、CbnRのDNA結合ドメイン-RBS(25塩基対のDNA)複合体はDNAの初期モデル構築に役立てることができた。 本年度は、全長CbnR-DNA複合体の構造精密化を完了させることに注力し、最終的には、プロモーターDNAのうち、ABSのほぼ全ての領域とRBSの約50%の領域についてモデル構築を行うことができた。3.6 A分解能でfreeR/R=0.286/0.234まで構造精密化を進め、PDBに登録した(PDB ID: 7D98)。今回得られた全長CbnRと55塩基対のDNAからなる複合体構造は、LTTRファミリーの中でプロモーターDNAとの結合様式を示した初めての例として、FEBS Journal誌で成果を発表した。
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